伝説のエリシアン6章7章【※腐向け注意】
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二階建てのバスがきた。
そういえば憂鬱な気分の時は、たいてい一階に陣取る。上の方へ昇って行こうだなんて、浮かれた気分の時にしか思いつかない行動なのだとこんな時に気づいてみたりする。
今の自分には地面を這うように低いところを走るのがふさわしいと思えた。
都会を通勤のために横切るものたちはみな、目的地と目的地を点で結ぶチューブのほうが都合良いのだろう、夕暮れの薄闇が始まったこの時間この路線のバスに乗る人はまばらで、ほとんど人のいない一階の座席にどさりと座り背にもたれて窓から街を見れば外の車の点け始めた燈光が滲みはじめていた。
イギリスは頭を仰向けて目をつむる。
今日の失敗がこわい。
気付けば別れ際の日本の言葉とおかしかった様子をひとり思い出していた。
”ご、ごらんになったのですよね……? ”
”なにを ”
”くずかごのなか、です ”
”あ、ああ ”
――日本がふたたびイギリスの目を伺うようにじっと見る――
くずかご。そういえば、くずかごの中を眺めていたとき感じたあの違和感は何だったのだろう。細く切った紙をよじり、先を赤く染めたこよりが三つ……
先の赤いこよりが三つ?
イギリスはがばっと起き上がった。
赤いこよりは当たりくじだ。当たりくじは一つでなきゃおかしいだろう。
おれ以外の二人は、確かに白いくじをひいて文句を言っていたはずだ。
あのくじ引き、公正じゃなかったとしたら……!?
いや、でも、あれを握って俺たちに引かせたのは日本で、あのこよりを作ったのも日本で、当たりのこよりを引いたのは俺で……
ってことは……つまり
顔が熱くなるのがわかる。
運なんかじゃない。
日本が、俺だけに、赤いこよりを持たせたんだ。
日本は俺たちから誰かひとりを自分で選ぶ気がないから運に任せたのだと思っていた。でも違ったのだとしたら……。ノーと言えない日本が、三人から同時に迫られて、二人の前で俺を指名することができずに一芝居を打ったのだ
と、したら。
胸が早鐘を打つ。
いや、自分に都合のいい仮説に飛びつきそうになっているだけかもしれない。これはあくまでも想像に過ぎない……けど、でも、多分。
いても立ってもいられなくなってくる。
イギリスは降車の呼び鈴を押すと停車場で扉が開くのももどかしくバスを飛び降りた。
作品名:伝説のエリシアン6章7章【※腐向け注意】 作家名:八橋くるみ