二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

逃げて追いかけた、その後は?

INDEX|1ページ/5ページ|

次のページ
 

01:手が届かない苦しみを君は知らない


「俺に触るなっ!」
バシン、と大きな音を立てて伸ばした腕が振り払われた。痛みは無かった。何だ手前!と、臨也に向かって言おうと口を開いた。だが、それは静雄の口から出る事はなかった。その理由は視線の先にいる相手の表情だ。叩かれたのは静雄の方だというのに臨也の方が痛そうな表情をしている。見た事のないそんな表情に静雄は一瞬意識を奪われていた。そのせいで僅かな隙が生じたのは言うまでもないだろう。そんな一瞬でさえも、そんな僅かな隙を臨也が見逃す事はなく、身体を捻って静雄の拘束を振り解き一目散に走り出す。臨也の背中は暗い路地の方向ではなく光が差し込む大通りの方へだ。追いかけ無ければならない、そう思うのに身体は何故か静雄の思い通りに動く事は出来なかった。あっという間に光に埋もれていく黒い背中をじっと見つめた後、静雄は思わず拳を握りしめ先程まで臨也が立っていた側の壁を殴った。ドゴン、という音と共に拳がコンクリートを粉砕する。
「ッ……」
言葉にできない思いが体中を駆け巡り、臨也の態度に腸が煮えくりかえり、感情をうまく抑える事が出来ない。そのせいで壁を殴る手はまた一つまた一つとこぶし大の穴を作り上げていく。それを何度か続けている内にようやく体内にあった苛立ちがおさまったのか静雄は殴り続ける手を止め、徐にポケットの中に手を突っ込んだ。クシャと音を立てて姿を見せたのはソフトケースに入っていた煙草だった。エメラルドに似た色彩の箱の中から一本煙草を取り出して口にくわえる。コンビニで売っている100円ライターを取り出して火をともせば、慣れ親しんだ味と匂いが周囲に広がった。
ふぅ、と紫煙を周囲に撒き散らしながら静雄は考える。 ――今更掴んでいたものを手放す気はない。最初に手を伸ばしてきたのはあちらのほうだ。それなのに、奥底に潜む感情に気づいた瞬間手の平を返したかのような行動をとられても遅い。遅すぎる。全てはあの日に始まってしまったのだ。
かといって、臨也はそれを認めることはしないだろう。もし認めたとしても、その次の行動に受け入れるという言葉は無い。寧ろ、消すと考えたほうがいいかもしれない。そして、《消す》を実行する方法を模索するだろう。どんな手段であろうとも、どんなに金銭が必要なものであっても、厭わないだろう。臨也は己の望みを叶える為ならばありとあらゆる手を使う男だ。
「とりあえず一つは先手は打っとくか……」
そう言って静雄はポケットに突っ込んでおいた己の携帯を取り出し、メモリの中に登録されていたある男へと電話をかけた。発信音が数回聞こえて途切れてきた時に聞こえてきた声は、静雄が電話を掛けてくるのが分かっていたかのように全てを知った風な言葉を吐き出したのだった。