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長谷川桐子
長谷川桐子
novelistID. 12267
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射抜かれたのは

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正臣に言われたから……というわけではなくて。でも、むきになって見に行かないというのもなんだか癪で……いや、つまるところが、僕があのひとをひと目みたい、というだけなのだけれど。
僕は今、もう一つの控え室である柔道場の入り口に立って、きょろきょろと中を見回している。来神高校の弓道部は来良よりもずっと人数が多くて、入ってすぐのところからかなり大きなスペースを取っていた。あのひとは背も高いし、髪も金髪だし、居ればすぐに目に付く筈だった。

……いない。
本日何度目かのため息。期待してきた分、今の落胆は大ききくて、こぼれる息も重々しいものとなった。巻き藁のほうに練習しに行っているのだろうか?でもさらにそちらまで見に行って、やっぱり見つけられなかったら……

「なんだ、ウチになんか用か?」
声は、上の方から降ってきた。
びっくりして、振り向くのではなく思わずのけぞるように後方の頭上を見上げる。まず目を惹いたのは、きらきらとひかる金色の髪。次にその下にある精悍な顔。さかさまに見えるそれらをまじまじと凝視して、ぱちぱちと目をしばたたかせて。
「おい、」
大丈夫か?と怪訝そうに言われて。ようやく僕は自分が置かれた状況を覚った。
「ぅひゃあ!!」
自覚した途端、のけぞったままだった身体の重心を崩して足を滑らせる。そのまましたたかに背中を打つと思われた僕の身体は、真後ろに立っていた人の片手であっさりと支えられる。
「軽っ」
ここにいるってことは高校行ってんだよな?中坊じゃねーよな?
尋ねるような、ひとりごちるようなその言葉に応える余裕なんてちっともなくて。酸欠の魚みたいに口をぱくぱくさせながら捕まれた腕と、その人の顔を交互に見て。

(へいわじま、しずおさん……!!)

ほんもの! うわぁ、手も大きい!! 声までかっこいいなんてずるい!!!

「誰かさがしてんのか? 呼んできてやるよ。どいつだ?」
「あ、……の」
「ん?」
小首傾げてのぞき込まないでくださいなにげに顔近いです声までかっこいいなんてずるい!!(大事なことなので2回言いました)
「だ、だいじょうぶですぅ!!」
しつれいしました!とバネ仕掛けのような一礼を返し脱兎のごとくその場をあとにする。たぶん平和島さんは呆気に取られているのだろうけど、振り返ってそれを確認する余裕なんて僕にはなくて。

顔が熱い。掴まれていた腕が熱い。なにこれ? なんだこれ?
正臣のからかいの言葉を否定できない。園原さんの言っていたことが、喩え話じゃなくなってしまう。

こんなのまるで
これじゃあ、まるで

(―――恋、みたいだ)

作品名:射抜かれたのは 作家名:長谷川桐子