Don’t Look At Me
跡部は言葉もない。心情的には忍足の言葉に頷いてやりたかったのだが、先ほどから表情ほどに笑わない眼が怖すぎて。そしてこのあまりにも忍足に都合の良すぎる状況も懸念の対象であった。
このままではここでそのまま、ということにもなりかねない。それだけは、どうしても避けたかった。
(どうするどうするどうするどうする)
頭の中はこの言葉で一杯に埋め尽くされ、跡部は冷静に混乱している自分を認識できない。
「お願いやから、そない怖がらんといて……」
忍足は跡部を前にして少しずつ安定してきたのか、笑っていてもどこか強張っていた表情に、緩やかに緊張が解けてきたようだ。微妙に細やかな感情を、表に出せるようになってきている。
完全に無表情であった眼の奥に、凍えるような寂しさを滲ませて、跡部の頬を掌で包み込む。
「そんな怯えた眼で、俺を見んとってや……」
その様子が余りにも可哀想で、怯えたのは忍足の自身のせいだとはいえ、ただひたすらに自分を待ち続けた忍足から逃げ出したことへの罪悪感が湧き起こり、跡部はこくりと頷いた。
もう逃げないという跡部の意思表示に、忍足は今度こそ満面の笑みでにこりと笑う。
「あとべ、すきや」
少し舌足らずに告白してくる忍足に、跡部は眩暈を感じて瞳を閉じた。
この状況をどうしよう。
薄暗い無人の生徒会室。
どこにも行くなと逃げ道塞ぎ、
甘い言葉で脅し微笑んでいる。
この状況をどうしよう?
作品名:Don’t Look At Me 作家名:桜井透子