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ワールドイズアキラズ

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 寒い。
 屋外にいるというのに薄手のシャツ一枚しか着こんでないから、それは当然だろう。
 そういえば、外の風なんて浴びるのは久々な気がする。
 なんで自分はこんなところにいるのだろう。わかるのはまたシキに置いていかれた、ということそれだけだ。
 アキラにとってはシキがすべてだし、シキがいない世界におけるアキラの価値など自分自身にとっても塵芥に等しい。
 これは、シキに捨てられたということなのだろうか。解放なんかいらない。自分は自分の意思でここに居ると言ったつもりだったのに。だけど、今更外の世界で生きていくことなどできるだろうか。
 シキとともにあるのならば、ただ朽ちることを待つだけの破綻した生活さえ愛しく思えていたのに。
 不意に、アキラの中に焦燥が生まれる。
 シキを、シキを探さなければ。
 シキがいなくては、自分は生きていけない。自分に価値などない。
 けれど、シキと共にある時には(そして厭なことにライン中毒者であっても)Nicoleウィルスと非Nicoleウィルスとが共鳴し合うあの反応をいつも感じているというのに、今はそれが感じられない。それだけ、遠くにシキがいってしまったということだろうか。
 ――いや?
 『捨てられた』のなら、離れたのはアキラのほうなのかもしれない。可笑しい。けらけらと、自然に笑みがこぼれる。なぜなのかは分からないし知らない。『何故』ということを考えるアキラの機能はとっくに委縮してしまっている。アキラにあるのは、シキとの破綻した絆だけ。そして今、それさえも失われたのだろう、おそらくは。
 だから……その笑いを不審に思ったのだろう、それを聞きつけて現れた人影に心底アキラは驚いた。
 そういえば『驚く』という感情をもったのも久しぶりな気がする。そこに佇んでいたのは、確かに――
 シキだった。
 見間違えるはずもない。
 記憶と寸分違わぬシキの姿。いつもはぎらついた瞳が、今は少し陰ったようにも思える。
「気でも触れたか……?」
 いぶかしむような視線。
「シキ……」
 あぁ、シキだ。シキが近くに居る。自分の傍に。捨てられた、わけではないのだ。
 この気持ちは何だろう。感情がこんなに揺れ動いたのは久々だ。自分には、まだこんな気持ちが残っていたのだろうか。
 ――捨てきれなかった、理性のように。
「シキ、来てくれた……おれのところに」
作品名:ワールドイズアキラズ 作家名:黄色