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審美

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 今月の体育の授業はサッカーだ。
 晴天。サボらずにジャージ着てグラウンドに出ている。あっちーな。上着は脱いだ。ほとんどのやつらがTシャツ姿だ。
 俺はわりとサッカーが好きだ。今月女子は陸上のハードルで、同じグラウンドの端っこで授業してる。俺ね、けっこサッカー得意。地区大会を突破すっかしないかレベルでうろうろしてるうちのサッカー部とならタメ張れる。そして女子の視線はすぐ隣。さあ、がんばりましょ~亮介くん。
「っち、たり~な、体育なんてよぉ」
 ぼやくが航は新体操部に入部してから体育の授業をサボらなくなった。てか、体育だけじゃなく授業全体的にサボらなくなった。まあ教室では寝てるけどな。
 つーのも、新体操部に入部したての頃、悶絶!股割り地獄!!の洗礼を受けて航は極度の筋肉痛に襲われてた。その当初の航は歩き方もがに股で、ガラの悪さには拍車がかかり傍目で見ていて笑えたもんだ……今は笑えねえけど。なんせ俺も股割りの洗礼を浴びようとは、そんときは思いもしなかったもんなんだけどな。
 でそうやってひーひー言ってた航が授業をサボって姿を見せなかったもんだから、茉莉ちゃんがさぁ、あのコやっさしいよね~、「東くん、練習に付いて行くの、大変なの? 体、大丈夫?」なーんて訊いてきてくれちゃったんだよね。
「いえ! これくらい、僕にとってはどうってことありません!!」
 後日だが、これと似たような光景を再び目にする機会があった。
 うちのクラスにゃサボりの常習になりそうなヤツは3人いんだけど、まあわかるだろうが俺と航と木山だ。木山も本日の体育に出席してる。あいつもめっきりサボらなくなった。理由にゃ土屋がからんでいる辺りが笑える。
 これまた木山も新体操部に加入したって頃、木山の場合は筋肉痛を抱えていたのか単にフケたい気分だったのか知らないが、とにかく木山は体育をブっちった。そんときもウチのクラスはグラウンド使用で、校舎の一年の階から俺らが体育やってんの土屋が教室の窓から見たらしいんだよね。で、土屋は部室で会った木山に訊いたわけ、木山の顔を見ながら。
「木山さん、体育の授業出てませんでしたよね? どこか、具合悪いですか? 体調悪いんなら、無理、しないでくださいね」
 待て。待て待て待て待て土屋、木山はヤンキーだ。
 何故その、サボりという選択事項が排除された思考で木山に真っ直ぐそんなことを言うのだ。
 ロッカーで着替えの最中、傍で見ていて俺は笑えてしょうがなかった。だってさあ、土屋のキラッキラお目目に捉えられて木山の野郎、固まっちゃったんでやんの。
 なんつーのもう、木山さんは悪いことしません、みたいな目で見ちゃってるんだもん土屋。どうするよ木山サンよぉ。ひー、おかしいっつーの。見れば向こう側で悠太のやつも着替え中の肩を震わせていた。土屋的には裏もなく言ってるので笑うに笑えずひくひく苦しかった。返答に詰まって時が止まる木山、なんて俺はそんとき初めて見た。土屋最強かもしんねぇとちょっと思ったね。あーおもしろかった。
 ゴールポストに寄りかかってキーパーのポジションをキープしてるあたりちゃっかりしてる(あんま走んなくていいからな)が、ま、木山がしゃかりきフォワードとかいんの想像できねえ毎度あいつの定位置だ。
 俺はミッドフィルダー。
 航、あいつが体育のスタート前にボヤくのなんてポーズみてえなもんだ。
「おらあ!! どけよっ、蹴んぞこの野郎ッ!!」
 アハハ、超はりきってる。
 始まっちまえば目覚めるんだろ、野生が。
 最前線を全力疾走してゴール前で相手キーパーと一対一。で、上記のセリフで「ひいっ!」とキーパーをビビらせた航があとはもうシュートの体勢だ。
 航は体力と脚力と迫力に任せてテクなんざ持ち合わせないのでボケをやらかすが、そんときゃ俺が華麗なる足技を披露でオッケー。
 つーわけで大抵ウチのチームが圧勝だ。
 サッカーみてえなチームプレイをすっときって、クラスの中での図式みてえなんが浮き彫りになるもんだ。
 俺と航と木山は統一してヤンキー組。俺そろそろ疲れたから交代よろしくね~ってなもんで白線から外へと抜け出した。隅っこの地べたに座って一息つく。見るともなし目の前のグラウンドに目を向けて、スカイブルーの空に白黒のボールがぽーんぽーんと飛んでいるのを眺めている。
 ゲームを進行させるのはクラスの中でサッカー部とか野球部とかバスケとかいわば花形っぽい部に所属していて性格的にもノリのいいやつら。ウチのクラスは俺たち(ヤンキー組ね)が良くも悪くも(悪いときしかねえかな。エヘ)目立ってるせいかどうか知らんが、あともう地味~なやつばーっかのクラスだと思う。あ、女の子は豊作だと思ってるけどね、みんなカワイイよ。男子はね、暗っれ~野郎ばーっかだなあオイって思う、男に興味ねえのでどうでもいいけど。
 こうして見ると、新体操部は地味~組の筆頭みてえだ。俺ら(ヤンキー組ね)を含まない新体操部員、つまり悠太水沢金子ね。あいつら……地味~だなあー(しみじみ)。
 水沢はディフェンダーのポジションで、時々わりと「お」って目を引く。ボールが転がってきたならトラップ処理が綺麗だ。てか、航なんかよりよっぽどまともな動きしてるな。あいつ運動神経いいんだなって確認する。ただ時々だ。ボールが転がってこないと自分から積極的に動いたりしねえ。あとは風景に溶け込んであいつが運動神経いいなんて誰もあんま気づかねえんじゃねえかな。地味にいい仕事して終わる。目は惹かねえ。ディフェンダーとしちゃそれってますますいい仕事なんじゃね、とも思うけど、たかだか体育の授業で埋もれている。
 悠太、球技おまえ苦手だろじつは。不器用な感じでボールをあさっての方向に飛ばしている。でもまあサッカー部以外のやつのレベルなんざどっこいどっこいなんで、標準値ラインなんだろな。
 かーねーこー……。
 あいつはまず、パスが回らない。
 いるよな、そういうの、うろうろうろうろしてボールにゃ一回も触らず授業を終えるやつ。あいつだ、金子はそういうポジションだ。サッカーのポジションじゃなくてもうクラスのポジションが。
 ダセえ、と思う。金子のこと。
 ふしぎな気がする。俺はもうあいつがダセえくせにマジダセえんじゃなく、表面上のダサさはダサいけど、でもマジダセえんじゃなくほんとのところでかっこいいやつだと知っている。
 運動オンチだよな、あいつ見てっと。ほんとマジだって運動オンチ、略せばウンチ。なんか足遅っせえし。反応鈍いし。
 俺は運動神経には自信がある。そのへんは客観視してみても自他共に認められるところだろう。俺は自分が器用なやつだと思うし、そういう風に生まれ付いといてラッキーだなって思ってる。
 だからさ、すげえんだろうなって思うことがあるんだ、金子のこと。
 あ、なんかボールがこっち来た。
 こっちつっても俺んとこじゃなくて、金子のとこ。ぼけーっと金子を投影して見てたんで俺は思わず右手をメガホンにして金子に向かって声を上げた。
「金子ー、ボール来んぞー」
作品名:審美 作家名:チャア