愛は戦争
動揺している。驚愕している。ゆっくりとこうなっていった過程を見た自分でさえ記憶の姿と重ねればそんな感情をまだ消しきれないのだから当たり前だろう。
「アンタ……どうしたって言うんだよ?」
硝子球のような赤い瞳は何も答えない。
「無駄だ。何を言っても反応しない」
かぶりを振る。それでも、何度でも声をかけると決めたのは自分。
「どういうことだ……どういうことだよ、こんなのが俺が追っていたシキだって言うのか!?」
「ナノを倒したら……いずれシキはこうなる」
それでも、守り続けると決めたのは、自分。
「ナ、ノ……? シキが追っている相手!?」
正確には、nに永遠の負けを宣告されたせいで。シキは――こんな、抜け殻になった。
「だから。決めたんだ。俺がシキを守るって」
再び、刀を手にとって突きつける。
「所有者だから」
「所有者……? 何のことだ?」
ふと。
この『アキラ』に対する引っ掛かりをその言葉に『アキラ』は感じた。
「お前、まさか……」
日本刀を握り締めたまま、すたすたと近づく。わずかに相手に浮かぶ怯えと動揺の色。
だから。
「……ふ……、むっ…!?」
口付けを、してやった。
強引に唇を、歯列を舌でこじ開けて舌を絡め取る。動揺している隙に相手の刀は蹴り払ってやった。自分も、そのまま刀を落とす。
相手の腰を引き寄せて、逆の手は首筋から背をなぞる。
「ん……あ、ふっ……」
腹を、腰を、胸を、頸を、頭皮をなぜられて、『アキラ』は唇が離れて息を漏らすたびにそんな声を上げてしまう。
――どこがどう弱いかなんて、自分が一番よく知っている。
がくがくと『アキラ』の膝が震えている。限界が近いのだろう。抜かしそうになった腰を抱きとめて支えてやった。
「ふ……くく、はは……!!」
こんなに楽しいのはどれだけぶりだろう。
「――お前、男も知らないのか?」
その顎を撫でて、笑い飛ばしてやる。
……ならば、大丈夫だ。
「……大丈夫だ。シキがぜぇんぶ教えてくれる。だから変な男に捕まったりするなよ」
その微笑が妙に淫靡なものに。『アキラ』には見えた。
灰色のコートのアキラの姿が掻き消える。元の世界に、戻れただろうか。
「なんだ。殺さないのか?」
背後には、悪魔のつまらなそうな影。
「だって、俺がシキの所有物じゃなくっちゃ意味が無い」