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そのレンズは曇らない

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「……俺は、堺さんと一緒にいられれば、それで充分幸せだけどなぁ」
 思わずそう呟くと、堺さんが「はっ」と笑った。だって、本当のことなんだから仕方ないです。
「さ、もう寝るぞ」
 堺さんは寝るとき、いつも俺に埃がつかないように柔らかい布に包んで、ベッドの横のテーブルに置く。本当は俺、寝るときも堺さんと一緒にいたいけど……。
 堺さんはゆっくりと俺を持ち上げて、そっと布の上に横たえてくれた。ぼんやりと部屋を照らす照明の中で、堺さんが俺を見下ろしている。
 ……やっぱり俺、幸せだ。
「……ねえ堺さん、堺さんは?」
「あ?」
「堺さんは、俺と一緒にいて幸せスか?」
「……」
 堺さんは何も答えず、俺の身体にそっと布を被せた。じんわり、あたたかい。ああ俺、明日は堺さんとどんな景色を見るんだろう。はじめて堺さんの顔の上から見たピカピカの景色は、今でもきちんと輝き続けている。それを見られて俺は幸せだ。堺さんも、俺を通してあの景色を見ているのかな。堺さんも、幸せになってくれてたら、いいな。
 ぱちん、と電気が消えて、真っ暗闇が訪れる。

「……俺も、同じだ」
「……!」

 おやすみなさい、堺さん。
 ――真っ暗になる直前に見たのは、堺さんと俺の、はじまりの景色だった。
作品名:そのレンズは曇らない 作家名:ちよ子