擦れ違いからの
という失礼な言葉を無視しながら。
そして与えられたメモの通り、指定された時間に指定された場所に行き、指定された人物に声を掛け指定された場所に道案内するように頼んだ。注意書きの通り、適当に笑顔を取り繕って、何気ない会話もした。
ところが、目的地の直前で彼の動きが止まってしまったのだ。メモには載っていないが、これは彼の予測の範囲内なのか、範囲外なのか。おそらく前者なのどうと、隣に立つ男性に聞こえないように小さく溜め息をつく。
おそらく、いや、予想するまでもないが自分は雇い主のつまらない娯楽につき合わされているのだろうと考えていると横に居る道案内をしてくれた精悍な青年が此方を見て道案内はここまでしか出来ないと言い、あれがサンシャインシティだ、と急いで説明してその場から去ろうとした。
もしかしたらこれはアイツの予想範囲外のことなのかもしれないと思い、とりあえずメモの通り最後まで道案内をさせようと思い、もう一度声を掛けた。
「本当にすまねぇ。大切な女を泣かしたかもしれねえんだ」
「――――――って走っていきながら答えられたからどうしようもなかったのよ」
と波江はコーヒーをまた一口啜る。
臨也をそれを波江と同じく無表情で静かに聞いていた。
が、とたんに肩を震わせると声を上げて笑い出す。
「ドタチンがそんなこと言うなんて意外なんだけど・・・・・・。フ、これだから人間は面白いよね。いつも俺の思ったとおりに動いてくれないんだ。ヒト、ラブ!あぁ、楽しいなぁ」
「・・・・・・本当に気持ち悪いわね。店内なんだから静かにしてくれないかしら」
顔を歪ませて、思いっきり体を引く波江。
「ところで、ちゃんと報酬はもらえるのかしら?それなりに努めたとは思うけど」
いつもと異なる仕事内容にいつもより肉体的に、精神的に堪えた波江は疲労を顔に浮かばせる。
もちろん、と言って波江の方に手を差し伸べる臨也。
波江は微動だにせず、臨也もそのままの格好で数分が経った。
「・・・・・・何の真似かしら?」
「ここが何処だか知ってる?」
「サンシャインシティでしょう」
「デートスポットで有名なんだよ?報酬は俺と一日デート権」
とウインクしながら答える臨也。
波江はその言葉を無視しコーヒーを一気に飲み終え席から立ち上がり帰路に着く。
そのまま彼女の歩みは止まることなく、数十秒後には彼女の姿は店内から消えていた。
臨也は変わらずコーヒーを飲みながら窓の外を楽しそうに眺めていた。
「狩沢、お前も悪いところあるだろ」
「なによー!ドタチンがあんな綺麗な女のヒトと一緒に歩いてるから駄目なんでしょ!?」
先程の口論はまだ続いていた。
門田も自分が原因であることは分かっていたが、腑に落ちないことが一つあった。
「狩沢」
「なに?」
「臨也になんかされたら大声あげるとか、とりあえず抵抗しろ」
懇願するかのように狩沢に話しかける門田。
狩沢も今日は色々あったせいで抵抗出来なかったし、おまけに助けてくれた門田に拒否反応を出してしまうということで少し罪悪感を抱えていた。
「だって・・・・・」
「確かに今日は俺も悪かったが、お前も臨也のされるがままにされてんじゃんぇよ」
「だから、それはドタチンがあの女の人と歩いてて、あたしだって傷ついてたからねっ」
「最低限、しろ」
「ドタチンの馬鹿!」
お互いに悪いとは思いつつ、それでもお互いに相手の悪いところを攻めないわけにはいかない二人のこのような喧嘩は寝るまで続いた。
夜中には二人が同じベッドで気持ちよさそうに寝ている姿があった。
狩沢は彼の大きな腕の中に包まれながら。
門田は小さな愛しい彼女の体を慈しむように腕に引き寄せながら。