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夏だから怪談しようぜ!

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 それはひどく蒸し暑い夜のことだった。
 草木も眠る丑三つ時。木造モルタル建ての寮の一室で、床に立てた一本のロウソクが燃えている。
 それを囲むのは四人の少年たち。皆一様に息を詰め、額に汗を浮かべている。
「これはある先輩から聞いた話っすけど……」
 おどろおどろしい声で、少年たちの一人――翔は話しはじめた。
「何年か前のレッド寮に、とても真面目で優秀な男子生徒がいたそうっす。入試に失敗してレッドに入れられたものの、努力家だった彼は授業の予習復習を欠かさず、必死にデュエルの腕を磨く日々を送っていたっす。そんなある日、彼は間近に迫った実技テストのために、新しくデッキを組むことになったっす――」
 ロウソクの炎が揺れるたびに不気味な影がうごめく翔の顔を、一同は固唾をのんで見守っている。
「そのテストにかける彼の意気込みは半端なかったっす。なぜなら、そのテストにはラーイエローへの昇級がかかっていたからっす。彼は同室の友人にもデッキの中身を悟られないよう、毎晩、寮を抜け出しては、誰にも見つからない秘密の場所でデッキを練っていたっす。でも、テスト前日の夜……。いつものように寮を抜け出した彼は、朝になっても帰ってこなかったっす。大騒ぎになって、先生も生徒も総出で、島中をくまなく探しまわったっす」
 翔はそこで一旦、話しを切った。
「それで、見つかったのか……?」
 しびれを切らしたように、万丈目が尋ねると、たっぷり間を取ってから翔は静かに首を横に振った。
「彼はとうとう見つからなかったっす。……ただ、島の北側の崖の途中に横穴の洞窟が見つかって、そこに彼が毎晩デッキを組んでいた痕跡が残っていたっす。そしてその崖下では、彼のエースカードが一枚、波間を漂っていたそうっす……」
 翔が神妙に話し終えると、一同はごくりと唾を飲み込んだ。
 重苦しい沈黙。それに耐え切れなくなったように、「くだらんっ」と、万丈目が吐き捨てるように言った。顔中にびっしり脂汗を浮かべている。
「まったく、くだらんぞ! そんな話、怪談でもなんでもないだろう」
 虚ろな目で踏ん反り返る万丈目の横で、同じく玉のような汗を浮かべた三沢がわざとらしく肩をすくめてみせる。
「ど、どうせ単なる作り話だろう。危ない場所には近づくなという教訓がこめられているに違いない」
「フン。怖いのか、三沢」
「万丈目こそ、すごい汗だぞ」
「貴様、声が震えているが、そんなことでイエローの寮までちゃんと帰れるのか?」
「おまえはあまり水分を取らない方がいいぞ。一人でトイレに行けなくて、泣く羽目になるからな」
「なんだと――!?」
「つーか、その崖ってさあ――」
 言い争う二人を尻目に、おもむろに十代が口を開いた。万丈目と三沢もぴたりと口論を止め、ぎこちない動作で翔を振り返る。一同の視線が集まる中、翔は恐るべき事実を告げた。
「そう――。この寮の裏手の崖っす」
「ひいいいいい……!!」
 今度こそ万丈目と三沢はそろって悲鳴を上げた。身をすくめて、無意識のうちに互いにすがりつく。ただ一人、十代だけが「へー」とのんきな相槌を打っていた。
 クーラーなどあるはずもないレッド寮。「怖い話でもして涼しくなろう」ということで、四人は十代と翔の部屋で怪談話の真っ最中だった。寮の違う三沢も引きこみ、要はただのお泊り会だ。昼間のうちに調達しておいた菓子やジュースが四人の周りに散らかっている。
 万丈目と三沢は青ざめ、目的どおり背筋の凍る思いをしていたが、十代は二人とはまた違った意味で涼しい顔をしていた。
作品名:夏だから怪談しようぜ! 作家名:p.