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夏だから怪談しようぜ!

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「十代! 貴様、怖くはないのか!?」
 その落ち着きぶりに万丈目が理不尽な憤りをぶつけると、十代はあっけらかんとして言った。
「う〜ん。どっちかっていうと、オレは話の内容より、淡々と話す翔のほうが怖かったぜ」
「このすぐ近くで人が行方不明になったんだぞ。気味が悪いと思わないのか?」
「いや〜。だって、この島で行方不明者って、あんま珍しくないっつーか……」
「貴様には情緒と言うものが欠けているぞ!」
「んなこと言われたって、怖くないもんは怖くないし……」
「オレたちが臆病者だというのか!?」
「いや、そうは言ってないじゃん」
 三沢と万丈目から口々にいわれのない非難を受け、十代が困惑していると、
「実は、この話にはまだ続きがあるっす――」
 翔が再び口を開いた。一同に緊張が走る。三人は姿勢を正して翔の話に耳を傾けた。
「彼が行方不明になってからしばらく経って、捜索は打ち切られたっす。寮にあった彼の荷物も、すべて家族が引き取っていった、そんなある夜のことっす。彼と同室だった生徒が、真夜中に誰かが窓を叩く音を聞いて目が覚めたっす。そこは二階。生徒は気味悪く思いつつも、思い切ってカーテンを開けたっす。すると――」
 ごくり。三人が固唾を呑む。万丈目と三沢は固く手を握り合い、十代は興味津々の目で続きを待っている。
「す、すると……?」
「――そこには、誰もいなかったっす。海から吹いてくる風の音が、窓ガラスを叩いているよう聞こえていただけだったっす。その生徒はほっとして、カーテンを閉めようとした。でもその時、その生徒は見てしまったっす。――誰かが、両の裏手にある崖のほうへ歩いていくのを……!」
「そ、そんな……!」
「まさか……!」
 万丈目と三沢が震え上がる。翔は淡々と続けた。
「もしかしたら、彼かもしれない……。生徒は青ざめたっす。波間に漂っていた彼のエースカード。実はあれを海に捨てたのは、他でもないこの同室の生徒だったっす。この生徒は、イエローにランクアップするかもしれない彼を密かに妬んでいた。それでこっそり彼のエースカードを盗み出し、海に捨ててしまったっす」
「そんな……」
「彼が行方不明になる前日のことだったっす。その生徒はもちろん、その崖の下が彼の秘密の場所になっているとは知らなかったっす。でも、後日それを知って、人知れず罪悪感に苛まれていたっす。――もしかしたら、彼はカードを拾おうとして海に……? 生徒は意を決して、人影のあとを追ったっす。今日みたいに、月もない真っ暗な夜だったっすよ。崖まで来ると、その生徒は下を覗き込んで彼を呼んでみたっす。でも、帰ってくるのは、岩にぶつかって砕ける波とかなしげな風の音だけ。それでも諦めずに彼の名前を呼び続けると、ふと波と風の音に混ざって、すすり泣くような声が聞こえてきたっす。――一枚……二枚……三枚……」
 万丈目と三沢は抱き合い、がたがたと震えだした。
「……四枚、五枚と、声は崖下からだんだんとこちらへ近づいてくるような気がしたっす。――三十七枚……三十八枚……三十九枚――。そして、とうとうその生徒は気づいたっす……。そう。それは間違いなく『彼』だったっす。崖の下からぼんやりとした白い姿を現した彼は、髪を逆立て、両目をカッと見開いてこう言ったっす。……一枚、足りない――!」
 ぎゃああああ! ――と。翔の期待した悲鳴は起こらなかった。
「…………」
「あ、あれ……? ダメっすか?」
 稲川○二モードから冷めた翔が、キョトンとして一同を見回す。
「うーん……。オチまではよかったんだけどな」
「三十九枚も数えるまで大人しく聞いていたのか? 馬鹿じゃないのかそいつは」
 すっかり興ざめした態の三沢と万丈目がそろってケチをつける。
「そうっすか〜? いいと思ったんすけどねえ」
 すると、それまで沈黙していた十代が突然声を張り上げた。
「なにそれ怖え!」
「は……?」
 三人が十代を振り向く。なんと先ほどまで平気な顔をしていた十代が、膝を抱えて震えているではないか……!
「じゅ、十代?」
「アニキ?」
「それは、こえーよ! 三十九枚じゃデュエルできねえじゃん!」
 今にも自分のデッキを取り出して、カードの枚数を数えはじめそうな勢いの十代に、三人はがっくり肩を落とした。
「そういう意味の『怖い』っすか……」
「他になにか思うことはないのか」
「やはり貴様には情緒が欠けている」
「だ、だって、デッキは四十枚以上じゃないと――」
「はいはい」
 翔がぴしゃりと遮り、十代は渋々口を閉じた。
「ほかになにかないのか? この馬鹿にも通じる怪談が」
「そうっすねえ。たとえば、デュエルアカデミア七不思議の一つなんすけど、岬に灯台があるじゃないっすか。なんでもあそこに毎夜、心中した男女の霊が現われるとか……」
「くだらん。どうせ、カップルがデートでもしているんだろう。ふしだらな」
「じゃあ、カードに描かれたモンスターが実体化して……」
「そんなもの怪談でもなんでもない! 日常茶飯事だ!」
「そ、そうっすか? あ、じゃあこれはどうっすか。たしかにいるはずなのに、ときどき空気のように姿が見えなくなる生徒が……」
「それ三沢だろ」
「三沢だな」
「十代、万丈目……」
 怒りにふるふると拳を震わせる三沢。
「冗談だって」と悪びれてみせる十代。
 その様子に強張っていた顔を緩ませる万丈目、翔。
 それまで緊張していた室内の空気が、和やかに緩んだときだった。
 突然、何の前触れもなく、
 バァン!
 部屋の扉が勢いよく開いた。
「「「「うぎゃああああ――!」」」」
 今日一番の悲鳴。
 ロウソクが吹き消され、室内が真っ暗になって静まり返る。そこへ場違いに朗らかな声が響いた。
「やあやあやあ! びっくりしたかい? 実は万丈目くんに、今夜きみたちが怪談を催すって聞いてね。可愛い後輩たちのために、僕らも一肌脱ごうじゃないかと参上したわけだよ。ほらこの通り、差し入れに冷たいものも持ってきたよ。ん? どうしたんだい? みんなずいぶん静かだねえ」
「吹雪」
 とめどなくしゃべり続ける吹雪を亮が制し、持ってきた懐中電灯で部屋の中を照らした。
「全員、固まっているようだぞ」
「おやおや」
 うんともすんとも言わなくなった後輩たちを前に、二人は途方に暮れた。


 翌朝。
 レッド寮生の安眠を妨害したとして、一年生四人と三年生二人が寮周辺の草むしりと壁のペンキ塗りを課せられたことは言うまでもない。

作品名:夏だから怪談しようぜ! 作家名:p.