ジレンマ
確認をしてから少し動揺が抜けてないのがわかっていたから、鬼道さんに少しだけ時間をください、と言ってグラウンドから離れる。
誰もいないような校舎裏に来た途端、
「佐久間次郎、だよな。一緒の幼稚園にいた」
と、声が後ろから響く。驚いて振り向けば、そこには会いたいと会いたくないと思っていた円堂がそこにいた。
目の前にいる円堂がオレをじぃと見てくる。その曇りのない目にオレは動揺してしまった。
どうして消そうとした過去を思い出させようとする。
どうして……オレの名前を呼ばれることが嬉しいと思ってしまう……!!!
「なぁ、覚えてるか? オレ円堂守だって、久しぶりだな」
止めろ。止めろ。
「お前、帝国にいたんだな」
オレに話しかけるな!!!!
円堂の肩を掴んでそのまま勢いよく壁に押しつける。
「さ、く」
「うるさいうるさいうるさい!!!!!」
オレの名前を呼ぼうとする円堂の顔を掴んで口付ける。
声を出そうと口を開いたままの中に舌をねじ込んで驚いて引こうとした円堂の舌を絡めてオレはただただその唇をむさぼる。
あぁ! なんて最悪な口付けだ。
オレは逃げるためにこんな口づけをしている、こんなことをすればもう円堂はオレを見ない。
オレを憎め、憎め。オレは今からお前等を徹底的に潰す。
だから憎め、憎め。帝国のオレなど憎め、そうすればオレはお前になんて気にせずに攻撃が出来るんだ。
お願いだから、オレを忘れろ。
お前をオレはこれから打ち砕くんだ。
はぁはぁと肩で息をして座り込む円堂を一瞥してオレはグラウンドに戻る。
「お前なんて知らない」
そう言って。
「……佐久間、サッカーやっててくれて、ありがとな」
そんな声は聞こえない振りをした。
校舎を曲がったとき、そこにいたのは風丸だった。
オレを睨んで仁王立ちしている。オレを憎いという目で見ていた。あぁ、なんだお前見てたのか。
「なんだ」
「佐久間。お前変わらないな」
「なんだと」
「オレが円堂といるといつもオレを睨んできた、昔からずっとそうだった。さっきもオレを睨んだ、昔と同じ目をしてな」
「うるさい」
「お前はまだ円堂が好きなんだよ。だからそんな目で今もオレを見るんだ」
今も、だと。
「あぁして円堂に嫌われようと、憎まれようと突き放したかもしれないけどな、お前は未だに円堂が好きだ、だから横にいるオレが憎い!」
「うるさい!!!!」
怒鳴れば、風丸がオレの肩をつかむ。
「オレはお前が嫌いだ! 円堂を、そうやっていつも傷つけるお前がな!!!!!」
そのままオレを押し退けて風丸が円堂の方へ向かう。
どうしたんだ、と駆け寄ってるんだろう。さっきの激昂なんてカケラも見せないでいつものように愛おしそうに円堂をみるんだ。
だからオレはお前が嫌いなんだ!
オレが出来ないことをさらりとやれるお前が!!!!
思わず壁を殴って息を吐く。
そして息を吸ってまた吐いてから眼帯を掴んで空を見た。
そうして、オレはいつものオレに戻る。
帝国学園の佐久間次郎に。
前を見て後ろを振り返ることなくオレは歩く。
容赦などしない、そう思った。
過去はもうイラナイ。
- end -
色々説明不足の佐久円風。幼なじみ設定なかなか楽しかったっす!
秋海