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しょーとしょーと 5作

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「なぁサンジ、お前のそれって癖?」

 ぎゅっと強く握り締められてから離れた手に、青い瞳に、視線を向けながら俺は首を傾げた。
 最初はただの勘違いかとも思ったんだが、よくよく考えると今までにもこうした場面があったのだ。手を繋ぎあう度、サンジはどれも離す瞬間に俺の手を強く握りこんでから離れていた。
 あ。念のために言っておくが、どれも不可抗力ってやつだ。別に自分たちから好き好んで、おーてーてーつーないでー状態になったんじゃないぞ。
 今まで気にもならなかったのに今更急に関心を抱いたのは、他ならない今朝見た夢が原因だった。俺が死んじまう、なんとも縁起でもねェ夢。だけどなんでか、懐かしくて嬉しく感じちまう不思議夢。そこで出てきた男の癖が、サンジがする行動と一緒だったのだ。
 サンジはこちらに背を向けたまま一瞬動きを止めると、いつもの如くタバコを吹かせて振り返った。

「癖?なんのことだ?」

 青い目が不思議そうに瞬く。なんだよ、それじゃ今までのは無自覚だってのか。

「手を離す時によ、お前いつも、こうぎゅってすんじゃん?ぎゅっ、て」

 自分の両手で演じて見せると、片方だけ見えるグル眉が不快そうに歪んだ。どうやら本当に自覚がなかったらしい。少し意外だ。サンジはそういうことに敏感なやつだと思っていた。だけどまぁ、それもそうかと直ぐに思い直す。無類の女好きが、好き好んで男の手までしっかり握るなんてありえねぇことだ。
 腹癒せとばかりに煙を顔面一杯に吐き出され、理不尽だと叫んだら煩ェと蹴りが飛んできた。俺の所為じゃねぇってのに、益々理不尽なことこの上ない。

「八つ当たりはやめて下さい、サンジくん」
「レディなら大歓迎だが、よりにもよって長っ鼻なんぞに……屈辱だッ!」
「相変わらず失礼なやつだな、オイ」

 つーか、歓迎もなにもお前がしてたんだよ、お前が。

「初めて逢った時からやってたからなァ、きっともっと前からだぞ」

 うしし、と船長よろしく歯を見せて笑ってやった。飛んでくるであろう蹴りを予想して、ちょっとだけ構えて間をあける。けれど何秒経っても俺に制裁が下ることはなく、代わりに落ちてきたのはタバコの煙と小さな笑い声だけだった。
 首を捻って顔を上げる。すると珍しく優しげな視線とぶつかった。ニヤニヤと、まるで悪戯を仕出かした子供みたいな表情でサンジは笑う。

「いや、お前と逢ってからだ」

 俺は思わず自分の耳を疑った。

「そもそもお前以外にしたことなんかねェよ」
「は?」

 ちょっと待ってくれ。今、なんだかとんでもないことをさらっと言われた気がするぞ。
 それってどういう意味だ。まさかとは思うが、まさかなのか。でも相手は超ド級の女尊主義者だぞ、もしやと思う方が変だ。変だけど……え、マジで?

「は?は――はぁ!?」
「なんてな」

 白い歯を見せられたかと思うと、ぴん、と鼻を弾かれ吹き出された。
 状況が飲み込めない俺は一度動きと思考を停止させて、それから顔を真っ赤に染めた。
 こんにゃろう!この野郎!このっこのっ、グルグル眉毛めっ!

「てんめェ!一瞬、真面目に焦ったじゃねェかっ!心臓止まるかと思ったぞっ、俺の繊細で小っさなハートを舐めんなッ!」
「ん?俺にハートを打ち抜かれたって?ハハハ、光栄に思え。だが悪ィな、長っ鼻はお断りだ」
「言ってねェよ!俺がそんなこといつ言ったよ!って、思えるかァ!しかもなんで俺一方的に振られてんだよ!こっちこそ願い下げだ、アホめ!このアホめ!」

 ばしばし背中を叩くとサンジは声を上げて笑いやがった。俺様ともあろうものがなんたる不覚。からかうつもりだったのに、逆にからかわれちまうとは……!
 でも最初の質問の辺り、実はちょっとだけサンジの耳が赤くなるという珍現象をちらりと目撃することが出来たので、今回はよしとしよう。この収穫をいつバラしてやろうかと悪い顔をして企んでいたら、鼻を鷲掴みされ持ち上げられちまったんだが、まぁそれはまた別の話だ。
 結局のところ、俺にはサンジが自分の癖を知っていたのか知らなかったのか、そもそもあれは癖だったのか、分からなかった。
 だけど今朝見た夢の話をした時、不意に見上げた青が細く微笑んでた気がしたから、もしかしたら知ってたのかもしれねェ。

 ――正確な事実は、きっとこの先も知る由なんてないんだろうけど。

「まァ、あれだな。俺を俺に出来るのはお前だけってな」
「ん?今なんか言ったか、サンジ」
「いんや。しっかし、まさか本当に逢えるとはなァ。しかも、こんなに早ェとは驚きだ」
「いやいや、なんの話だよ」
「俺と運命の恋人の話」
「なんだそりゃ、またどっかのレディに恋でもしたのかよ。懲りねェやつ」

 呆れた視線を投げかけると、サンジは不気味にも嬉しそうに笑いやがった。
 あれまァ、どうやら図星のようだ。どうせまた振られちまうんだろうな、と考えて、今回はこのコックの肩があんまり落ちないといいなと思った。
作品名:しょーとしょーと 5作 作家名:oruba