HONEY!
「だからね、うちの学校の生徒は全て把握している。それに君は紀田正臣くんの友達だからね、特に知ってた」
「紀田くん知ってるんですか?」
「うん、友達だよ。だから今朝君と会ったときも、あ。帝人くんだ、と思って声掛けたの。そしたら」
いきなりぴたりと止まったから僕も止まって視線を合わす。
ん?
なんでこんなに顔近づけてくるの?
「君が好きになったみたい」
「は?」
今なんと言いましたか?
好き?
は?
それはどういう。
え?
「ただ意味もなく声を掛けたんだけど、絆創膏をつけてもらったときに恋に落ちたみたいだね」
え、だからあのとき驚いてたのか、っていやいやいやいや!!!
嘘でしょ、なに言ってんの!!??
笑顔で言われても困ります!
さぁ、と冷や汗が出るのがわかる。好意を持ってもらえるのは嬉しいけどなんかおかしいっ!!
焦っていたらもう全部カゴに入れた? なんて聞かれた、はい、と言ったらカートを押し始めるから僕は慌てて着いていく。
……どうしたらいいんだろう。
そのままの流れでレジまで行って買い物は終了した。
「じゃあ一緒に袋持ってあげるよ」
「あ! いえ、それは」
と言った時だった。
いきなり空気が変わった。ぞっとするくらいに冷たい空気が後ろから来ている。何コレ、凄く怖い。
まるでブリキ人形みたいにギギギって振り向けば、物凄く怒ったようなそんな顔で僕たちを見ている。
「は? シズちゃん? なんでここにいるの」
し、シズちゃん?
「てめぇ、臨也。そこどけ、離れろ」
い、いざや?
シズちゃんってのはともかく、臨也なんて珍しい名前であまり聞く事も無いけど……でも最近聞いたよね、紀田くんから。え、ちょっとまって、じゃあ、もしかして折原臨也さん?
「シズちゃんには関係ないだろ。え、ちょっと待って。まさかシズちゃん、帝人くんと知り合いな訳? は? 意味わかんない」
「うるせぇ、俺の前で喋んな、どけ、消えろ」
「そっちがうるさい、そっちがどっか行けば? てか死んでよ」
てことはまさかこのシズちゃんってのは、やっぱり平和島静雄さん、だったり……する?
多分静雄さんだと思う人がこっちに来て僕の腕を引く。
そしたら臨也さんが驚いてそして、笑った。今まで見た笑顔とは全然違う、物凄く怖い笑い。
ぞっとして思わず静雄さんを見れば、こっちも笑ってた。見たことの無い、本当に怖い笑い。
なにこれなにこれなにこれ、どうしたらいい? どうすればいい? 僕はどうしたらいい!?
「「ぶっ殺す!」」
「す、すみません!!」
喧騒に負けないように大きな声を出したら、二人が止まった。
同時に僕を見る、なんだか怖い。
「……臨也さん」
「なんだい、帝人くん」
「……静雄さん」
「なんだ、帝人」
あぁ、本当にこの二人が折原臨也で平和島静雄なんだ、と思いながら僕は、もう半ば泣きそうになりながら
「い、一緒に鍋しませんか!」
と言った。
周りがしんっとなる。ははは、ですよね、何言ってるんだろ僕。さっきまで怖い顔をしていた二人がぽかんって呆れたような顔をしてるのは正直面白いとか言ったら怒られそうなんだけども。
でも。まだ僕たちスーパーにいるんですよ。これ以上皆さんの迷惑は駄目ですって。
「いいの、帝人くん」
「はい」
「いいのか?」
「もともと誘おうと思ってたんです」
「ちょっと、なんでシズちゃん誘おうと思ってたのひどい」
「あ? うるせぇなノミ蟲」
「は? うるさいのはお前だよ」
「ちょ、ちょっとだから喧嘩は止めてください! 喧嘩したら連れて行きませんからね!」
頑張って声を張り上げたらぴたっと二人が止まる。そしてすぐにつかみ合ってた手を離して僕のそばに来た。
はははっ、ものすごく周りの視線が痛いんですけど、あぁ、もうこの店いけないじゃないか。
はぁ、と溜息を吐いて二人を見る。なんだか嬉しそうに僕を見てるからまた溜息を吐きそうになった。
こうして僕は非日常に足を突っ込んでしまった。こんな予想外のところで。
「帝人くん、行こうか」
「帝人、行くぞ」
「は、はい!」
だからなんで貴方たちのほうが先に行くんですか……と思いながら慌ててついていく。
さぁ、波乱万丈の幕開けだ!