HONEY!
だってタイプが違うからよく分からないし。別に紀田くんはイケメンじゃないとは思わないけど、あの人はなんか違ったんだよ。寄せ付けない空気って言うか。
紀田くん見たらまだいじけてたからほっておくことにした。
「あ、もうすぐ昼休み終わるね」
「ほんとだ、戻るか」
食べ終わった袋たちをゴミ箱にいれて慌てて先に行く紀田くんについていく。
そういえば紀田くんに言い忘れたけどあの人学ランだったのに校舎に入っていったんだよね。うちブレザーなんだけど、なんなんだろう。
「紀田くん、帰るよー」
「わりぃ帝人! 委員会があるから先に帰ってくれ!」
「分かったー」
ばいばい、って手を振って僕は学校を出た。
さてどうしようかな。バイトもないし時間あるし、ちょっとブラブラしようかな。
そう思いながら一度家に帰って着替えて外に出た。よく考えたらスーパーに買い物にいかなきゃならなかったし。
そうして近所を歩いていたとき僕は公園でビックリするものを目撃した。
一人の男の人が外にある手洗い場で頭を洗っていた。
それは別にいい、暑かったのかな、とかそれくらい。
でもなんか腕とか擦り傷を一杯作ってるみたいで、ここから見ても赤い。あれはダメだよ!
僕は慌てて引き返して救急箱を取ってくる。よし、まだいる。
「あの!」
「あ?」
僕の声を聞いて水を被っていた人が流したまま顔を上げてこっちを見た。
ぽたぽた滴が垂れてそれが服に染みていく。
僕は唖然と見てしまった。
顔はかなり傷だらけ、たぶん切り傷。腕もかなり切れてる。服も結構ボロボロ。
なのに、なんだか切り傷も含め全てが格好良かった。……カッコいいとか言うのはどうかと思うけど
なんか似合っているというか。
「……なんだ」
「あっ、あの、てっ手当て! 手当てさせてください!」
「は?」
睨むように僕を見ていたのに、僕の言葉を聞いて驚いたような呆れたような顔で見てくる。
僕は近寄ってまず水道の蛇口を閉じてから比較的新しいタオルを押し付けて手を引っ張ってベンチまで向かう。
おいっ、となんだか焦ったような声が聞こえたけど無視することに決めた。怪我してる人を見て見ぬふりできなかった。
「はい、まずタオルで頭拭いてください、用意しますから」
「や、いや」
「ほら、早く! 手当てします!」
「お、おう」
僕の言った通りにがしがし頭を拭いて最後に軽く頭を振った。
その時に少し水滴が飛んできて、それに気付いたみたいですぐに謝られたけどそれは別に気にしない。
すぐに僕は手当てにかかった。
「大きめの傷は包帯巻きましたけど、他の傷は薬を塗っただけです、じくじく痛むかもしれませんが、ほっておくよりましなんでこれで大丈夫です」
ぱちん、と救急箱を閉めてそう言ったら、怪我をしていた彼はじいと腕を見てから僕を見て、笑った。
「ありがとうな」
それがあまりに綺麗だったから僕はドキッとしてしまう。
手当てしてるときも思ってたんだけど、この人はカッコいい。
綺麗な金髪に長い睫毛。造形だけみると綺麗なのに全体的に見ると本当にカッコいい。
平凡な自分からは掛け離れたような人。羨ましい、とまでは思わないけど今朝会った人もだし不公平だと思う。
「正直助かった。手当てとかできねぇから洗い流して終わるつもりだったから帰ったら弟に怒られるな、何て思ってたんだ」
「そのままにするつもりだったんですか!」
呆れた!
僕はまた救急箱を開けて絆創膏をたくさん取り出す。それを小袋にいれて手渡した。
「なんだ?」
「絆創膏です。ちゃんともっててください! これだけでもまだマシですから」
「あぁ、サンキュ」
嬉しそうに笑ってポケットに入れてる様がなんだか可愛く見えた、ってのは内緒にしとこう。
では、と立ち上がろうとしたときにいきなり救急箱を持たれた。え、と思えば、持たせろ、と言う。
律儀な人みたいだ。
別にいいですよ、とは言ったけど聞いてくれなくて悪いけどうちの家まで来てもらってしまった。
汚い家を見せるのは忍びなかったけどまぁ仕方ない。家の前まできてもらって救急箱を受け取って直す。
そしてまた外に出て家の鍵を閉めれば
「何処かに行く予定だったのか?」
と聞かれた。
はい、買い物に、と言ったら付き合う、と言われた。お礼したいからって、いやいやいやいや!
そこまでしてもらうようなことしてませんから、全然!!
「大丈夫だ、別に力ならあるしな」
「いやそんな重い買い物はしませんし、何より悪……うわぁっ!」
「ほらな」
いきなり片手で持ち上げられてしまう。軽いな、とか言われたけどそういう問題じゃないんですけど
……なんか軽くショックを受けながら僕は目を合わせて降ろしてください、と言えばなんだかふてくされたように聞こえたみたいで笑われた。
なんか子ども扱いされてる。制服見てるとどうみても同じ学校みたいなのに。もう一度降ろしてください、と言えば、笑って降ろされて頭を撫でられた。
だから今朝といいなんだかおかしい!
「あの、だから怪我してるのに物持たせられないですから!」
「だから大丈夫だって言ってんだろ。まだこれ以上言うなら」
「わぁっ、ちょっ!」
いきなりまた抱き上げられた。
し、しかも、これ、お姫様だっこってやつじゃないか!
慌てて見たら、すごい綺麗に笑われた。
「これでスーパーまでいくぞ」
「か、勘弁してくださいぃ!」
それから急いで下ろしてもらって僕たちは一緒にスーパーに向かうことになった。
なんだか不思議な気持ちになったけど、別に嫌じゃなかった。よく知らない人と一緒にいるのに。
あ、名前知らない。聞こうかな。
「……あの」
「あのスーパーか?」
「は、はい!」
指差された場所が僕がよく行く安いスーパーで、すぐに僕の頭はなに買おうかな、で埋め尽くされていた。
「あ、あの、まだ何も考えてないんで外で待っててもらっていいですか?」
「あぁ、そうだな。じゃあ」
と言ってなぜか人目のつかないところで待ってくれるらしい、よく絡まれるから、と。
だからあれだけ傷だらけだったのかな。絡まれやすいとかいやだなぁ。僕だったら逃げるしかできない。逃げれるのかな、ってのもあるけど。
さて、何にしようかな。とりあえず切れてたものと弁当に使えるものとあぁ、米切れてた。パンも買おう。
そんなことを考えてふと思った。鍋にしようかな。誘ってみようかな。
トントン
「はい?」
いきなり肩をトントン叩かれて振り向けばそこには朝の男の人がいた。やぁ、って手を振って。
頭を下げればにこにこ笑って僕が押していたカートを押し始めた。
「え、ちょっ、あの!」
「手伝ってあげようと思ってね。君は選んできたらいいよ、俺が押してあげるから」
「大丈夫ですよ」
「俺がしたいだけだから」
どうしてこんなに強引なの二人とも。見た目全然違うし雰囲気も違うのになんだか似ている気がする。
僕は早めに買うものを選んでかごに突っ込む。
ちらりと顔を覗けば、その視線に気付いたのか僕を見て笑った。
「何、帝人くん」
「え、あ。……あ、あのなんで僕の名前知ってるんですか」
「ん? 俺ね、人が好きなんだ」
「は、はぁ」