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百害と一利を天秤にかけ

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 蝶々マスクに襲われかけて早坂双子から親切にされて部活の後輩とだらだら喋ったその翌日。
 蝶野攻爵に関する情報は思ったよりもあっさりと集まった。
 ていうか一家揃って集団失踪って、逆に言えばこれ以上情報が集まらないことを意味しているのではなかろうか。
「さっそくどん詰まった」
 新聞記事の切り抜きを何枚か揃えたところで私の探偵ごっこは終わろうとしている。昼下がり、保健室。私はジャージ姿でベッドに寝転がる。
 五時限目は体育。保健の先生は私の仮病を笑って流して「ちょっと留守番お願い」なんて言って出て行った。大人に良い顔をしておくとこういうときに便利。そう、例えばそんなふうに新しい寮長に取り入ることなんかも検討しておくべきだろうか。
 キャプテンブラボーと名乗るかのおっさんは津村斗貴子と同時期にこの学園に現れた。
 証言その一。ここへ赴任してくる前から津村斗貴子と顔見知りだったっぽい。
 証言その二。武藤カズキとなにやら仲良し。なんか特訓してる。
「なんなんだろね、なんつうかねぇ」
 得体の知れない何かがこの学園やその近辺で水面下を暗躍しているみたいです。オバケやらなにやらの噂もその辺りからか?
「まあしかし気配を感知したからって私に何ができるわけでもないしなぁ」
 独り言は空しく宙へ消え、私は私を改めて声に出す。
「私は私の目的のためだけに行動するのだ」
 さて、と。気合いを入れてベッドの上に上半身を起こしたらケータイ電話がポケットで震えた。見慣れた名前。呆れた声で出迎えてやる。
「六舛? あんた授業は?」
「ウチのクラスは午後は文化祭準備にあててもらえることになりました。針原先輩はどこでサボってるんですか?」
 なんでサボってることはお見通しなんだよ。つかそれ六舛も準備をサボってるってことだよね?
「ああ、保健室ですか」
「今私なんにも言ってないよね? あんた今どっから判断したの!?」
「文化祭当日、カズキにうちの部の活動を手伝ってもらうことになりました」
 うん? ああ、そうか、昨日頼んだあの件か。仕事はやいな。
「カズキにっていうか、俺の友達数人に手伝ってもらうので、いつもより部室が騒がしくなると思いますが……あとは先輩が自分でなんとかしてください」
 あえて一対一をセッティングしないというやり方はなんとも六舛らしい。そしてそれは私にとって、おそらく一番望ましい形だ。だって知らない先輩が突然接触を図ってきたら警戒するもんね普通。
 あれ、なんだこの後輩。優秀。
「ありがと。今度なんか奢るよ。何がいい?」
「……考えておきます」
 言い淀む、とか答えに詰まる、とかいう反応は六舛には珍しい。私が何か礼をするということは想定外だったのだろうか。
 そんなにもケチな先輩だと思われているのだろうか。
「そうだ。念のためもうひとつ」
 六舛の声はその中途半端な言葉で消えた。携帯を耳から離し画面を見ると通話終了の文字。
「ん?」
 電話の向こうで何かあったのだろうか、という危惧を抱くより早く、再び携帯が震えだす。反射的に通話ボタンを押したが、それは知らない番号からの着信だった。
「えーっと、もしもし?」
「オッス、オラカズキ」
「は?」
 なじみのない声。しかしその名前は、
「武藤カズキ、くん?」
「ええ、これカズキのケータイです」
「は? その声は六舛?」
「はい。先輩にはまだこれ披露していなかったと思ったので、やってみました」
「これ?」
「声色」
「…………」
 声色。声真似。声帯模写?
 いや、だから何者なんだよお前は。
「つーか知らない人のモノマネされても面白くもなんともないわ」
「それもそうですね」
 あっさりと肯定して「まあとにかく」と言葉は続く。
「何か緊急の頼みごとが発生したらこの番号にかければ良いかと」
 私は今までの人生でここまで用意周到な人間を見たことがあっただろうか。いや、ない。
「リョウカイ。アリガトウ」
「針原先輩、口調がおかしいです」
「いやなんか、感心を通り越して呆れてきちゃって」
 そうですか、という相槌には何の感慨も含まれてはいないようで。
 ぶつりと繋がりが途切れる。通話終了。唐突な感じがしたが、まあそんなものかもしれないと思い携帯をベッドに投げだそうとしたところでまた手のひらに振動。再び「六舛孝二」からの着信。
「カズキに携帯を返しました」
「それ報告するためにわざわざかけ直してきたの?」


つづく
作品名:百害と一利を天秤にかけ 作家名:綵花