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百害と一利を天秤にかけ

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 夕暮れの道を歩いてゆく。買い物袋を提げたおばさんとか、お母さんに手を引かれるこどもとか、平和な光景を背景にして、私は歩いていく。
 そうだ。初めて蝶野攻爵の姿を見たときも、これくらいの時間帯だった。

 西日が眩しくて、手をかざして捉えた姿。真っ黒な細いシルエット。昇降口に隣接する水飲み場で、次々と薬を飲み込んでいた。細い首。動く喉仏。遠くから見ていた。近づけなかった。私の背後を通り過ぎた女の子たちが囁き合っていた。「寄宿舎にひきこもってるひと」「留年してるんだって」「病気なんだって」「天才だったんだって」。クラスの中にいつまでも残されている空席の正体を知った。
 これはホンモノだ。そう感じた。私みたいな紛いものじゃなく、本当の本当に自分を囲む世界を憎んでいる。そういう種類の人間が本当にいるだなんて思ってもみなかった。

 だって、じゃあ、どうして生きてるの。
 そんなにこの世を憎むなら、どうしてそこでそんなふうにじっとしていられるの。

 詰め寄って、双眸を覗き込んで、腹の中を見透かすような、空想を展開したけれど、近づく勇気がどうしても出なかった。どんな衝動に襲われるかわかったもんじゃない。私は傷つける方法なんて知らないのに。

「うっふふふ、ふ」
 少し油断したら染み出してきた青臭い黒歴史を私は笑って押し戻した。すれ違う幼女が怯えた視線を寄越す。母親が手を引く。幼女は私の視界からいなくなる。
 歩きながら、頬の傷に触れて、首筋に触れた。僅かだけど確かにそこにある傷。恐ろしい思いをした。命の危険を感じた。だというのに私は私の中の好奇心を優遇した結果として、あの変態さんもといチョウノコウシャクにできればもう一度会いたいと感じている。
 殺されて、死ぬかもしれないけど。
 しかし、あれだけの敵意を浴びたあとにどうして私が生きてここにいられるのか、その答えを知っているのはあの変態マスクしかいないわけで。
 どういうつもりなのかとかその人間離れした身体能力はいったいなんなんだとかなんか元気そうだけど学校に復帰するつもりはないのかとかそんな疑問がぽんぽんと浮かんでなんだか楽しい気分になってきた。

 手中にある手掛かりはふたつ。
 「蝶野攻爵」と「武藤カズキ」。

作品名:百害と一利を天秤にかけ 作家名:綵花