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私の可愛い旦那様。

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「仁王くん、今日は…」
「ああ、柳からメールあって、会うから遅くなると思う」
「そうですか。わかりました」
 玄関に向かいながらの会話だ。急いでいるので顔を見てはいないが、口調で微笑んでいるのはわかった。
「じゃあ、行ってくる」
 大雑把に靴をはいてから首をねじり、いつものようにいってきますのキスをした。
少し照れたように目を細める柳生に自分も目を細め、俺はドアをあける。


 柳生とは三年前から同居をはじめた。俺は高校を出てから調理師免許をとるために専門学校に通いだし、柳生は大学に行きながら、適当に小説なんて書いてはマイナーな雑誌に投稿して小遣いをかせいでいる。柳生らしくない明るい、誰にでも読めて楽しめるようなものだ。こんなものを書くのかと感心したら、自分の性格とまったく違う、興味のない方向性だからこそエンターテイメントに徹して書けるんです、と柳生らしい理屈で返された。書くネタにつまって悩むことはあっても、文学者のように己と向き合って苦悩することはないようだし、そのつもりもないようだ。柳生にとって小説を書くということは暇つぶしの一環であり、あくまで本分は大学で勉強をすることにあるらしい。俺は小学生のころから作文が嫌いだったので、長くて意味の通じる文章を書けるというだけでも柳生を尊敬する。
 柳生は大学生だというのにコンパに行くわけでもなくサークルに入るわけでもなく(所属はしたが参加はしていないのか?)、俺がいつ帰っても必ず家にいる。実は大学にも行っていないのではないかと思うこともあるが、俺は昼は学校で夜はバイトという、控えめにいってヒマではない生活をしているので、本当のところはわからない。もともとそういったことを詮索するタチではないし、柳生も詮索されて喜ぶタチではなかった。
 いろいろなことがうまく折り合っていて、俺たちの暮らしはとても平穏で穏やかだ。喧嘩をするということもない。柳生が穏やかな性格だからか、六年間同じ部活で顔を合わせていて、互いの性格をつかんでいるのか。おそらく両方だろう。
 柳生は生活らしい生活をしない。一人でいれば食事をするということもないし(あまり食にこだわらないし、俺の作るほうがうまいというのがある)、散らかさないかわりに掃除もしない。そのあたりはペットに似ている。
わがままを言うこともなくおとなしくて、俺が帰ればいつも笑顔を向けてくれる。たまには疲れているときもあるが、いきなりやつあたりをされるなどということはない。
 ただいまと帰れば、それが当たり前のようにおかえりと迎えてくれる人がいる。まるで結婚だと思う。なんて幸せな日々だろう。
 俺はあまり円満な家庭に育っておらず、だからこそ余計に、そういったままごとのような家庭に憧れていた。


 待ち合わせをした、駅前のスターバックスについたら、柳はもう待っていた。店の前にある時計台によりかかり、長い足を無造作に前に投げるようにしているのが、キザにならずに似合っている。頭も小さいしまったくモデルのようだなと、俺は昔から思っていたことを改めて思った。
「よお、久しぶりじゃの。待ったか?」
 片手をあげて近づけば、柳は柔らかいくせに含んだもののあるような、昔からの独特の笑みを浮かべて顔をあげ、読んでいた文庫を閉じる。その細い目は本当に見えているのかとしつこくからかって怒らせたのも、今は昔だ。
 俺は学生のころは柳が好きではなかったが、卒業して遠く離れてみると、あれはあれでいい人間であり、よい友人だったのだと気づいた。中学生というまだ心の未成熟だった時分には、自分と違う考え方が許せなかったのだろう。その微妙な苦手意識を引きずったまま、高校時代もさして親しくなるでもなく過ごしてしまったが、惜しいことをしたかもしれない。
 多少なりとも成長した今は、当時の柳の言動に合点がいくこともよくあり、そのたびに、彼はあの年でここまでの境地に達していたのかと感心する。俺だって決して精神年齢が低かったわけではないと思うから、おそらく柳が図抜けて大人だったのだろう。
「いや、時間通りだ。少し息が切れているが、走ってきたのか?」
「ちょっと学校出るのが遅れての。こんくらいで疲れるなんて、一年前には考えられんかったが、現場離れたらもうダメじゃ」
「ハタチそこそこの人間が何を言ってるんだ。遅れたなら取り戻せ」
 会うのはほとんど二年ぶりだが、まるで昔のような距離感で話をはじめられた。それに安心するような、かえって緊張するような気分だ。
「お前は変わらんの。で、今日はどうした」
「ああ、いや」
柳は少し、どこから話をしようというように首をかしげ、「とりあえず入るか」と店に顔を向けた。俺はそうだなとうなずいた。俺は昔から甘いものとコーヒーが嫌いだったが、それを人に言ったことはなかった。
大多数の人間が好きなものを嫌いでいつづけるよりは、そのうち慣れると割り切って挑戦していったほうがいいと思ったからだったが、今のところそれが報われてはいない。
柳はスタバによく行くのか、迷うそぶりもなくトールだのフラペチーノだのと流暢に注文し(外国語に聞こえる)(実際外国語なんだが)、俺はよく分からないのであいまいに「コーヒー…レギュラー? で」と冒険のない注文をした。
 さてと二人向き合って座って、一息ついたところで柳は仕切りなおしのように笑って「久しぶりだな」と言った。注文されたものを持って席につくまでに、話とアプローチの方向をまとめたのだろうか。
 柳と話していて、一番嫌だったのがこれだった。
 柳の考えた手順通りに話が進み、柳に聞きたいことを俺はべらべらと提供してしまう。それ自体は別にかまわないのだが、そのうちそれに慣れて、自分では何も考えずに柳の望むことばかり口にしてしまいそうな、流されそうな自分が嫌だった。そしてそんな自分が嫌だったから、自分をそうさせる柳を嫌った。まったく子供の思考だ。
「久しぶりやの」
「そっちはどうだ?」
「変わらんよ。やってることは違うけど普通に学校いって、適当にバイトして。そっちはどうじゃ?皆変わらんか?」
「ああ、そうだな。…丸井がブラジルに行ってるのは知ってるか?」
「え? いや、初耳じゃ」
「大学一年の夏休みで、ジャッカルの実家? 実家じゃなかったかな、親戚の家か。滞在費タダにつられて泊まりにいったら、すっかり向こうが気に入ったらしい、適用な理由をつけて留学中だ」
「何を勉強しに?」
「何だろうな。そこまで深く聞かなかった」
「はは、知りたがりの参謀が、そんな返事するようになるとはねえ」
 笑えば、柳は苦笑した。少し懐かしむようにテーブルに目線を落とし、テーブルに肘をついて腕を組んでから俺を見上げてきた。
「昔、やっぱりお前はそう言ったな」
「え?」
「俺とお前は、立海の、特に中学のときに仲が悪かったろう」
「………」
 なんと答えようか迷っていたら。
「気づいていたぞ」
 ふっと笑われて、その茶目っ気に救われる気がして俺も笑った。
「仲悪いっていうよりは、気まずい感じじゃったの」
「そうか……そうだな。確かに、表立って険悪ではなかった」
 柳は軽く頷いて、少し照れたような顔を見せた。
作品名:私の可愛い旦那様。 作家名:もりなが