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ありえねぇ!! 1話目

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気を落ち着かせようと、更に一回紫煙を吐き出し、恐ろしいものを見るような目つきで、もう一度まじまじと帝人の首を見た。

自分の知る限り、こいつの第一人称は『僕』だった筈。


彼の目は怯えていたが、澄み切っていて濁っていない。
自分の動物的な直感も、嘘をついていないと言っている。
認めたくねぇが、記憶が吹っ飛んだのは疑いようがない。


《……それに私、なんで首だけに?……私の体は何処に行っちゃって……、ふぐっ…うえっえっえっ……》
ここまでが限界だったのだろう。言い終わると同時に、またもやでかい瞳から、堪えていた涙がどっと零れ落ちていく。


「……なあセルティよぉ、俺はこれから竜ヶ峰にどうしてやりゃあいいんだ……?」


頭を掻き毟りつつ目を向ければ、セルティは自分を抱きしめるように震え、地べたにぺたんと座り込んでしまっている。
あまりのショックに腰まで抜けたかもしれない。
彼女の全身からとぐろを巻いて噴出した影が、四方八方うねうねと四散し、心の動揺を表している。
多分あれが納まるまで、彼女は使い物にならないだろう。


帝人はえぐえぐと嗚咽をこぼし続けていて、流石の自分も今度は泣き止めと言えなかった。

そりゃパニックを起こしたくもなるわな。
気が付いたら記憶なくした上、首しかなく、知らない黒バイクに拉致され、知らない男に怒鳴られて。
これが己自身に起こったら、きっと怒りのあまり気が狂っているかもしれない。


「……あーその、なんだぁ。お前の事情も知らずに怒っちまって本当にすまん。俺達はお前の友人だ。力になると約束する。俺は平和島静雄で、こっちはセルティ・ストルルソン。お前をちゃんと体に帰してやるから。落ち着いたらでいいからさ、頑張って泣き止む努力はしてくれよ。頼むから……」


新たなタバコを口に咥えて火をつける。
こんな現実、ありえねぇっつーか、いらねぇよもう!!



★☆★☆★



エレベーター事故から続けて記者会見に雪崩込み、諸々のインタビューを終えた幽はくたくただった。
今日のスケジュールは丸つぶれで、数日は調整で大変なことになる筈だし。


マスコミの前に晒し者になった哀れな仔猫も疲れ果て、腕の中でクッタリ良く眠っていて、自分で歩いてくれそうにない。
空腹だし喉も渇いているのに、これから面倒なことに、非常階段を上って我が家まで帰らねばならないのだ。

溜息ついても、棲家が最上階の16階にあるのは現実。
故障したエレベーターが治るまで、しばらくの間この上下運動を繰り返さなければならない。


猫を抱えてひたすらてくてくと階段を昇る。
まだまだ最上階は遠いというのに、さっきから一定の距離を保ち、足音もなくひたひたとついてくる気配が気になってしょうがない。


「君、俺に何を望んでついてくるの?」


ぼやけた黒い影を全身に纏った首の無い小柄な幽霊は、申し訳なさそうに肩を丸め、両手を前に組み、ぺこぺこと小さなお辞儀を繰り返す。

触れようと手を伸ばせば、案の定素通りしてしまう。
「ああ、本物だね」
ずいぶんと腰の低いお化けがいたものだ。
見た目も変わった奴だけど、中身もへんてこりんで、俄然興味が沸いた。


「しゃべれないの?」
こっくり頷く。


「行き場ないの?」
再びこくこくと頷く。


「君、なんで幽霊になったの?」


いきなり高すぎるハードルだったらしい。
質問にどう答えようか困ってしまったのだろう。途端首なしの幽霊は、無いはずの頭を抱え、じたばたともがき出す。

そしてそのままぱたりとこけ、ごろごろと階段の踊り場まで転がり落ちてしまった。
軽い上半身を振りたくりすぎ、バランスを崩したらしいが、あまりにも間抜けだ。
しかも慌てて飛び起き、ぱたぱたと足音が聞こえそうな可愛らしさで、大慌てで彼の傍に駆け戻ってくる。


ハムスターを髣髴させるどん臭さに、チワワのような愛らしい仕種を持つなんて。
こんな幽霊、聞いたことが無い。

「面白いな、お前」

可愛いものは好きだし、首無しで、明確な意識をはっきり持っている幽霊なんて珍しすぎる。
ますます楽しくなってきた。

「ふう、何かもっと簡単に、意思疎通ができればいいんだけど」



幽霊はちょっと首を傾げ、それから躊躇いがちにつんつんと幽のセーターの袖を引っ張った。肉体は素通りする癖に、無機物には触れられるらしい。

引かれるまま腕を伸ばせば、簡易の伝言板が出来上がりだ。

《ご迷惑をおかけして、本当にすいません。でも、貴方しか……、気づいてくれた人…、居なくて……、つい……》


躊躇いながらも、指で丁寧にゆっくりと黒いセーターに言葉を綴る。


《……誰にも相手にされないのは、寂しくて、心細い……》


「名前は?」
《ミカドです》


「君、いくつ?」
《16歳》


「ふーん、六つ年下か。その首はどうしたの?」
《気づいた時には無くなってました。こんなの……、ありえません……。どうしよう……?》


心細いのだろう、首の辺りからしゅんと俯いてしまう。
脳裏にふと、この子を助けてやりたいなどという、庇護欲がむくむくと湧き、我ながらびっくりだ。
無感動、無表情、無関心の三拍子揃った自分にとって、こんな感情は独尊丸を飼った時以来かもしれない。

ミカドと筆談ならぬ指談を続けていたら、足場が半減し、寝辛くなった愛猫が、ひらりと手から逃れ、ふんふん鼻を鳴らしながら彼に近寄っていく。
猫は霊に敏感だというから、独尊丸も見えているのかもしれない。

ミカドも嬉しそうに屈みこみ、手で寄ってきた仔猫を撫でようと指を伸ばすが素通りしてしまった。
寂しそうに肩を落とすが、やがて身に纏っていた影を引っ張り、右手にくるくると包帯のように巻き付けると、再度独尊丸へとそっと手を伸ばした。
ちょいちょいっと喉を擽れば、猫もゴロゴロと甘えた声を鳴らしだす。
また気配が嬉しそうな明るいものに変わった。


「ミカドは猫のこと、好き? 」
《はい、可愛いですね》


警戒心が強い独尊丸が懐くのなら、悪い幽霊ではないだろう。
幽は己のセーターの右袖を強く引っ張って伸ばし、右手を指先まですっぽり包むと、手を差し伸べた。


「おいでミカド。俺の名前は『幽』だし、これも何かの縁だろう。拾ってあげる」
《でも……、いいんですか? ご迷惑じゃ……》
「一人は寂しいって、言ったのお前。それとも、俺とここで別れて他の当てある?」 


ミカドは暫く躊躇っていたが、永遠に孤独になるかもしれないという恐怖には勝てなかったようだ。やがてのろのろと左手を伸ばしてきたので、遠慮なく薄いセーター越しにきゅっと手を握ってやる。
感覚はない、だが確かに掴める。

となれば、後は簡単だ。
左手で独尊丸を抱き上げ、右手は捕獲したミカドの手をしっかり握り締め、部屋を目指して非常階段を上がればいい。

自分の引きずる勢いに、つんのめって転びかけながらも、ミカドはあわあわと小走りでついてくる。
首が無いはずなのになんとなくだけど、ミカドが嬉し泣きしている気がし、幽もちょっぴりだけ嬉しくなった。


とっくに感情を無くした筈の幽が、己の感情の機微に気がつくまで、後数時間。


作品名:ありえねぇ!! 1話目 作家名:みかる