変化と想いと日常と
「…帰るタイミング逃して校舎に閉じ込められるんじゃないわよ」
「うわーありえそうですげぇこえー」
「…ふん」
マジな感想だったんだけど、みっちゃんは不機嫌そうに鼻を鳴らして帰っていった。
いや、本気で怖かったんだよ?…努力が来なかったら、確実にそーなるだろうし。
…あぁ、そうなるかな。僕はついてないからね。
うん、ついてないよね。よりにもよってあいつだよ?勘違いと思い込みでラッキーマンに弟子入りして、そのまんま僕の傍にずっといた宇宙人の男。
本っ当、馬鹿だよねぇ、僕も。…でも。
あいつを好きになった事自体は、なんだかんだ言って、やっぱり。
…ついてないとは、思えないんだよね。
そして、案の定。
努力は来ないまま、僕は先生にも用務員さんにも気付かれる事無く学校に閉じ込められて、今に至る。
あぁ、このまま朝までかーと思っている訳なんだけど。
ケータイ繋がんないし。連絡取れないけど、いつもの事だからうちの家族もそう心配しないだろう。
…ハラ減ったなー。まぁ仕方無いか。寝よう。
そう思って机に突っ伏す。
寝違えないといいなぁ、と思いながら。…そんな事思ってると寝違えそうだなぁ。
…でもまぁ、いいや。
色々投げて、そのままうとうとし始めた頃に。
「しっしょーーーっっ!!!」
「ぶふぉっ!?」
唐突に窓蹴破って努力が突っ込んできた。
…って下駄の音とかしなかったんだけど!!すげーびっくりした!!
「待ってくれていたなら言って下さいよっ!!」
必死な顔で僕の肩掴んでがっくんがっくん揺さぶってくる。ちょ、待て、酔う酔う!!
「おっ、落ち着けってば!!…てゆーか、何で解ったんだ?」
「………」
なんとか動きを止めさせて訊けば、無言が返ってくる。
凄い複雑そうな顔。
…あー、この顔は。
「…みっちゃんか」
言えば、ぐっ、と呻き声。
…わっかりやすぅ。
若干の呆れと共に、別の事を思う。
努力は、相変わらず公園でテント暮らしをしている。テントの中にいる時は、まぁ当然下駄も脱いでいる訳で…。
わざわざテントまで来たんだろーか、みっちゃん。相変わらずすげー行動力だね。
そんな事を思いつつ、黙っている僕に何を思ったのか、
「師匠!!」
強い口調で僕を呼ぶ。…そんな必死な顔されてもなー。
「…まぁ、帰るか」
溜息を吐いて、ちらりと窓に目をやる。
…すげぇ無残な事になってんなー。
しかし今の音は衝撃でブザーの一つも鳴らないとか、セキュリティとかどーなってんだこの学校。
…でも仕方無いかな。
「…修理します」
反省した様子で努力。
「…まぁ、いつもの事っちゃいつもの事だからあんま気にすんな」
うん、侵略宇宙人は相変わらず来てるし、ヒーローの面子も高校来てるからな。
ぶっちゃけ日常茶飯事だ器物破損なんて。
「…で、どーやって帰んの?」
「…変身しますから飛んで帰りましょう」
「あ、抱っこしてくれんの?」
「はい」
「そっか、ありがと」
「いいえ。私の所為でこうなったんですから」
「…僕が勝手に待ってただけだよ。で、ついてなかっただけ。…みっちゃんに何か言われた?」
「…いいえ…その………別に」
歯切れ悪いなー。目も逸らしてるし。
みっちゃんキッツイしなぁ。何言われたんだか…。
………あれ。
なんかフツーにスルーしたけどさっきの会話何かおかし…。抱っことか言ったか僕。高校生の自覚持てよ僕。
いや、だって僕今ラッキーマンには変身できないしさー…。宇宙人来てる訳じゃないんだから。
………あれ、言い訳かこれ?
「師匠、行きましょう」
「え、あ、うん」
いつの間にやら努力マンがそこにいた。
変身するの早いなぁ。
呑気にそう思っていると、背に手が回され、膝裏に手が…ってオイ。
「…この形で?」
「…いけませんか?」
そこで真顔かお前。
「…いや…まぁ…」
俗に言うお姫様抱っこってやつだよね、これ。
…まぁ、米担ぐよーな運び方よりいいか…。
なんか感覚マヒしてる気もしながら、大人しく横抱きの形に。…むぅ、気恥ずかしい。
「送ってから窓の修理しますね」
「ほっとけば?」
「そうはいきません!!」
「はいはい」
そう言うとは思ってたけどね。
「い、いきますよっ!!」
苦笑する僕に努力も気恥ずかしくなったのか、赤い顔して慌てて飛び立つ。
「うわっと」
焦ると危ないだろー、主に僕が。
「あ、すいません、師匠。大丈夫ですか?」
「うん。努力ちゃん、安全運転でねー」
「はい」
そう言って、笑い合って。
「しっかりつかまっていて下さいね」
「うん」
…この状態にあんまり抵抗が無いのは努力だからかなぁ、なんて。
ふと浮かんだその考えに顔が熱くなった自分は、今更ながら度し難いと思った。
そのまま努力は慎重に僕を運んでくれて。順調なのはいいんだけど。
…空気がいい感じに涼しくて、努力の腕があったかいから、眠気がぶり返してきた。
「ん…」
「…寝ていいですよ。そのまま師匠の部屋のベッドに寝かせておきますから」
目を擦ると、優しい声で努力が言ってきた。
「…ん。ありがと。…窓、蹴破んなよ?」
ちょっと笑ってそう言うと、困った様な苦笑いが返ってきた。
汗も一筋。
しっかし、下駄も履かずに来るとか、あんな慌てんでもいーだろーに。まぁ平気だろーけど、足大丈夫かな。
「…あふ」
欠伸が出た。
…うーん、眠い。
「…おやすみなさい、師匠」
「ん…」
優しい声音。その声に引き込まれる様に、意識が穏やかに遠くなっていく。
………なんか、完全に眠りに落ちる寸前に、何か言われて、何か…額辺りに感触がきた様な気がしたんだけど、夢だったんだろうか。
…わかんないや。