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からくりは自立思考の夢をみるか

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久々に入った仕事だというのに、依頼主は一階のババア、報酬は家賃1ヶ月分ときた。
別に依頼主がジジイであろうとババアであろうと、払うものを払ってくれさえすれば構わないが、身内からの依頼というのはどうにもモチベーションが上がらない。報酬も現金や銀行振り込みではないため、子供たちに黙ってパチンコに勤しむことも出来ない。


「ったく、現金でくれたらいいだろ。そうすりゃ俺の高等錬金術でパパッと…」
「2倍どころか10分の1にしちまうのがオチだろ。そんなの、金をドブに捨てるようなもんさね」
「うるせーよ!あーあ…昨日だって、あそこでデジタル台にしときゃ……」
開店前のお登勢の店で、申し訳程度に出された水を飲みながら銀時はぼやく。
スナックのカウンターに座れば酒でも飲みたくなるものだが、昨夜から早朝にかけて軽い二日酔いになるほど飲んでいたため、今はこの温い水が調度よかった。


「あの華陀に取っ捕まったこともあるってのに、まだ懲りずにギャンブルすんのかい、アンタ。これで実力と運が備わってりゃ文句はないんだけどねぇ…」
「放っとけ!もう捕まるようなヘマしねーよ!…それで、今回は何だ?神楽が悪ふざけで開けた、天井裏の穴の修理か?」
「まーた開けたのかい!?自分たちで塞いでおきなよ、全く!大体、そんなことで家賃1ヶ月もまける訳ないだろ!今回お前に頼みたいのは……」





「たーま」
「…あ、銀時様。何か御用でしょうか?」

夜に向けて開店準備をしていたからくり家政婦のたまは、人間と変わらぬ動きで振り返る。現在の主人の姿を認めて、台拭きをテーブルに置き向き直った。

「まだ開店までに大分時間あるだろ。熱心だな」
「これが私の仕事ですから。御用は何でしょう?」
「これからちょっと付き合え」
銀時は原付のキーを見せる。
「これからですか?まだ、お登勢様より与えられた仕事を全て…」
「あぁ、ババアの許可は取ってあるから安心しろ」
まだ戸惑った様子のたまの手を引き、銀時は店の外へ向かった。



原付バイクはそのまま、歓楽街を回る。いつか、2人で“羽目を外しに”来たルートそのままに。
ウインドウショッピング・ボーリング・カラオケ・エステ・酒場……銀時に連れ回されるままになっていたたまは、自分を連れ出した主人の意図が読めずに困惑していた。

二日酔いの影響か、隣でちびりちびり酒を飲む銀時は自分に何か仕事を命じるつもりでもなさそうで、自分も決して先日のように暇を持て余していたわけではない――

そこまではたと考えて、たまは自身の思考に愕然とした。自身の中で渦巻いていた何か、眠っていた何かが、目覚める予感がした。


からくりは、ただ忠実に主人の命令をこなしていけばいい。そこに疑問を挟み込む余地などない。そんな余地があってはならない。命令の奥に潜む主人の目的を知る必要はなかった。主人の命令・為すことに理由を求めることはない。求めてはならない。
それらの禁を犯すことは、からくりの存在意義を脅かすことと同義だ。からくりは人ではない。人の領域に踏み込んではならない。人とからくりが互いに近付くことは禁忌だ。

(私は、得体の知れない何かを抱えている。からくりでは決して持ち得ない筈の何かを)

数週間前の出来事が頭を過ぎる。ここ数日で芽生えた“ある疑い”が、たまの中でゆっくりと確信に変わる。
オイル容器の縁を握り、たまは言葉で表現できない何かを感じていた。





「たま。お前、何か悩みでもあるのか?」
「悩み?」
今まで黙って酒を飲んでいた隣席の銀時が、静かに問いかけた。その内容が思いもかけないことだったので、たまは聞き返す。

「お前が元気なさそうにしてるから、ババアがえらく心配してたぜ」
「お登勢様が…」
「今日の仕事はいいから、さっさと元気を取り戻して来いだとよ」
「そうですか…お登勢様にそのようなご心配をおかけしていたのですね。全く気付きませんでした」

主人を煩わせたことを気に病むたまの様子に、銀時は溜息を吐きながら再び問いかけた。
「で?何をそんなに考え込んでるんだ?」
たまは暫く黙り込んだままだったが、やがて俯いたまま口を開いた。

「銀時様は、からくりの役目とは何だと思いますか?」
「役目?そりゃ、人間の言うこと聞いてしっかり仕えることじゃねーのか?大抵のからくりってのは、そのために作られたんだろうし。……あ、いや、これはあくまで一般論だから!別に俺がお前にそう在ることを望んでるとか、そんなんじゃねーからな!」
「はい。からくりの役目とは、ただ一つ。主人の命令を忠実に守り、それに従うことです」
銀時の配慮には一切気付かず、たまは言葉を続ける。

「からくりは、人と違うからこそ存在意義があるのです。からくりは人ではないから、人には到底出来ない作業をすることも、人であったらしてはいけない作業をすることも出来ます」
「………」
「からくりは倫理を持ちません。人が命令をすれば、それがどんなに人の倫理的に許されざる外道行為であろうと、何の躊躇もなく命令を遂行します」
「………」
「からくりは感情を持ちません。人がそれに似た“何か”を作ることが出来たとしても、人の感情そのものを作ってからくりに与えることなど、現代の科学技術では出来ません」
「…何が言いたいんだ?」
「人では及ばない部分をからくりが、からくりでは及ばない部分を人が補い合って生きているのです。両者にとって、これ以上に理想的な関係はないでしょう」
「そうか?」
「そうです。これ以上からくりが人に近付いても、良いことなどありません。現状維持が最善です」
「それにしてはお前、何だか息苦しそうにしてるじゃねーか。特にここ最近」

たまは目を見開いた。そして、そっと目を伏せる。
マスターにもう一杯注文すると、銀時は黙って先を促す。

「…からくりが人に近付けば、例えば自立意思や感情を持てばどうなるか。からくりの唯一の欠点を補うものが出来た時、それは完全な人間の誕生を意味するのではないですか?」
「完全な人間、ねぇ…」
「からくりが感情を持つだけでも、大人しく人に隷属させることは難しくなるでしょう」
そうなれば、人とからくり、絶妙なバランスで保たれていた均衡の崩れる日がきっとやってくる。人はからくりを支配しようと、からくりは人から解放されようとするだろう。
それなのに、人は……。無意識に瞳を曇らせ、たまは更に俯いた。

「それなのに、からくりに自立した意思と感情を持たせようとする人は後を絶ちません」
「まあ、長年続いてきた人類の夢みたいなもんだからな。ドラえもん作るの」
「ドラえもんが感情を持つ限り、秘密道具を悪用しない可能性はゼロではありません。人類に代わって世界征服を企む可能性もゼロではありません」
「お前、それ子供の前では言うなよ…」
「データに加えておきます。子供の前で、ドラえもんが秘密道具を使って世界征服を企んでいることを公言してはならない、と」
「お前本気で藤子先生に訴えられるぞ!!」



たまは、容器に残っていたオイルを飲み干した。今から尋ねることへの覚悟を決めるように。

「銀時様」
「何だ?」