偽り
フェリシアーノ。
本田菊。
フランシス。
アントーニョ。
ローデリヒ。
エリザベータ。
「どうしちゃったんだろうね?
通り魔かな?
お見舞い行かないと」
違う。通り魔なんかじゃない。
何故、俺がこの人物たちの名によく見覚えがあったか。
何故、俺がこんなにも不安なのか。
答えは俺の周りにいた人たちだからだ。
それと同時にあいつの周りにいた人たちでもある。
俺のたった一人の弟、ルートヴィッヒ。
しかし何故。何の理由があって。
考えても答えは見つからない。
「みんな何聞いても答えないんだって。
精神状態もまずいらしいよ」
やはりそうだった。
あいつは少し医療も齧っている。
精神状態をまずくすることなど、簡単なことだろう。
なにせあいつは天才なのだ。
手に入れた知識で、新たな知識を生み出す。
その才能は素晴らしくもあり恐ろしくもあった。
このような事件はあいつにしか起こせない。
たったひとりの弟が今は恐怖の対象だった。
そんな俺に気づいたのか、イヴァンの手が俺の頭を撫でる。
「安心して。僕が守るよ」
その声だけで、安心できる。心が温かくなる。
大丈夫だ。今隣にいるのはイヴァンであって弟ではない。
イヴァンの手が頬へと伸びる。
俺の顔を撫でようとしたときだった。
『バンッ』
乾いた銃声。
飛び散る鮮血。
倒れこむイヴァン。
撃たれた? イヴァン?
誰が? 何で?
ゆっくりと扉のほうを振り向くと、