道すがら
別に日暮里がエロ本持ってたからって驚きゃしねえ。航なら持ち歩いてんじゃねーよーって笑いネタにする。悠太とかが持ってたらオオイってツッコミ入れて後はやっぱ笑うな。あと見せろって言う。木山から出てきたら、微妙な空気が流れるだろーなー……うん木山にはぜひエロ本持ち歩いてほしくないもんだ、持ち歩いて自由なんだが人の目に触れねえでくれたまえってカンジ。火野も微妙かもしんねえがどんなん見てんのか好奇心が湧くのでやっぱ見せろって言う。もっともあれだなって思うのは土屋の鞄からエロ本が出てきたとしたら相当びびる。
キャラクターイメージってのはある。土屋が、エロ本。だめだ成立しねえ。いや俺だってな、一般基準に照らし合わせるとしたら、土屋も男子ボクたち興味津々の思春期よとか……そういうの一括して、でも土屋だぜ、の一言で片付けちまうキャライメージだ土屋。だって土屋だぜ。
実際に日暮里からましてや土屋の鞄からまじエロ本が出てきたわけではないのでそろそろエロ本から離れよう。エロ本の話ではない。土屋の口から本人のイメージにちっとそぐわない言葉が出てきた。
「合コン」
という単語だ。
「あ?」
思わず聞き返した俺に向かって土屋はにこにこしながらまた言った。
「合コンです亮介先輩」
話はこうだ。
やべえ雰囲気に、赤羽に出くわした。出くわしたっつーか……やべえよな。導火線に火が点くんじゃねえだろなあの野郎。いよいよ関東大会を控えたってこの前日に、嵐が来る前の不穏な雲行きが肌に纏わりつく感じだ。踏んづけちまって拭い切れない泥のような野郎の残滓が俺らの間に漂った。これから麗しの奈都子さんの顔を見ながら奈都子さん手ずから美味えオムライス食うぞってときに空気読めあん野郎。クソが。消えろよ。悠太が航の肩を叩いたのを合図に俺らは再び歩き出した。赤羽なんぞ振り返らずに。
クソのせいでクソみてえになっちまった雰囲気はざばーっと便所の水にさよなら~したくて俺はとりあえずおどけることにした。忘れようぜあんなやつ。
「奈都子さんが待ってるぜ~」
俺を、と語尾に付けたら即行で航が「待ってねえよ!」と突っ込み入れた。つーかマジだろムキなやつ。それでどっと笑いが起こった。これでいい。あんなやつには邪魔させねえ。誰にも邪魔できるかよ。
「なあ、明日って、女子部の子たちからも『キャーステキー』って声援もらえちゃったりする?」
「それは」俺の言葉に悠太が苦笑いしながら答える。「でも、女子は前半の競技日程だから、それが終わってもしかして男子の試合に来るかもな」
「わお。亮介張り切っちゃうー」
俺のいそいそ浮かれた言葉を、しかし悠太は、なんだかしみじみとした口調で受け止めた。
「なんだか、信じられないな」
噛み締めるような言い方で、でも、穏やかな表情で。
「俺たちさ、女子部との仲も、ほんっと、最ッ悪だったのに。いっつも邪魔者あつかいされて。でも今は、同じ大会に、同じ学校として、出場しようとしてるなんて」
それに水沢と金子も耳を傾けていた。
積み重ねてきたものが。悠太が、それに水沢と金子が、俺の知る以前から。俺の領域もふと重なることになり。俺以外のやつらも重なって。俺たち以外も巻き込んで。
「はい。きっと、ぜーえったい、女子部のみなさんも、応援してくださると思います」