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道すがら

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 キーの高い声が、やけにどきっぱりと宣言するのでみんな視線を向けた。間違いようのねえ特徴ありまくりの声。
「僕、うっかりしてました。みんなに、伝え忘れてたこと、あるんです」
 視線を集めた中で、土屋は満面の笑顔をしていた。こいつの笑顔は、ニッコニコとか、キッラキラとか擬音付きだ。そんな土屋の笑顔が、俺ん方に向いた。
 なんだか知らねえが、自信ありげというか、得意そうというか。なによ。土屋からそういう表情を向けられる覚えが俺ないけど。
「ずいぶんお待たせしちゃったんですけど。僕、亮介先輩から頼まれていたこと、約束、してきたんです」
 え? あ? なに? 俺なんか土屋と約束したっけか。頼んだ? 何か頼んだっけかな。
「女子部との、合コンを、取り付けてきました」
 え? ……はい? なんか、土屋の口から出てくるにはイメージにない単語だったような気がして聞き返した。
「あ?」
「合コンです亮介先輩」
 ……はい?
「前に言ったじゃないですか、亮介先輩。ずいぶん前ですけど。マネージャーとして、女子部と合コンもセットして、って」
 ……あーーーーーー!!
 言ったかもしれないなんだその遥かなる記憶は。え? てゆーか、えーーーーー?
「えーーーーー?」
 心の声はそのまま口から飛び出した。何度も思うが土屋から合コンて似合わねえぞーってのと、そんなんそういえば俺言ったな忘れてるぞー、どんだけ昔の話よーってのと、てかそれ言ったの冗談だしでも本気30パーくらいはあったかもしれねえがマジかよこのやろーと、とにかく、えーーーーーっ。
「へ? は? なんだそりゃマジで?」
「はいっ」
 はい……って、煌く笑顔だな。マジで?
「葵先輩と、約束したんです」
 えーーーーー(何回目だよ)。
「おま、鉄壁のディフェンス葵ちゃんを突破したってのかー?」
「はいっ。指きりしてきました」
 ゆびき……指きりだとーーーっ!? 昨今の男子高校生が女子と指きりすなーっ……でも土屋ならよっぽど似合う違和感を感じねえ。しかーし、葵ちゃんと指きり! 指きり! しかーし……土屋なら、許、す。
 プチパニック引き起こした俺を気づいてか気づかずか尻目に、これまた土屋から合コンってな連想し難いもんを聞いて事の成り行きを待つ部員らみんなの顔を、土屋はくるんと見渡した。
「明日、大会が終わったら、打ち上げを、女子部と合同で、やることになりました」
「どういうこと聡史?」
 悠太が尋ねる。誰もが初耳らしい。ぽけんとした表情の男ども一人ひとりの顔を見やって、土屋はスペシャルみてえなスマイルを放つ。もっとも土屋はいつだって笑顔を出し惜しまない。いつでも全開で。
「葵先輩から、伝言です。『女子は全国大会出場の祝勝会なんだから、男子部が残念会になって場をしらけさせたら、承知しないからね』だ、そうです」
 スペシャル笑顔の持ち主土屋は、力を込めてそう言った。
 それは、女子部マネージャーから男子部マネージャーへ伝えられた、遠回し的表現ではあるけど、本質的にはつまり、男子新体操部に対するエール、だと言えた。自信満々で揺るがない強さに裏付けられた、女子部ならではらしい、ちょっと素直じゃないけどそこがまたキュートなメッセージだ。
 なによ、ニクイね、葵ちゃん。そしてそんなんセッティングしたってかよ土屋。合コンよりも俺の期待値を上回ってんぞ。
「でかしたーっ」
 ニッコニコしている土屋が超愛いやつだ。
「亮介クンが、抱き締めちゃうぞこのやろー」
「うわわっ、亮介先輩ぃ」
 小っちゃい体で精一杯のことをしてくる土屋はウルトラ可愛いやつだ。抱きつき易い土屋の体を持ち上げて、ぐるーんって海辺で追いかけっこする恋人かよーって感じにターンした。てか、軽。あまりにひょいって持ち上がったもんでみんなから笑いが起こった。俺の腕ん中の土屋本人も笑ってた。
 明日舞台に立つ俺たちに挑戦する俺たちに俺たち以外からも吹く強い強い風を感じた。追い風だ。
作品名:道すがら 作家名:チャア