ひとつの夏
再び独りになった政宗は、大きく肩を落とし、ため息をついた。
何と情けない格好を晒してしまったのか。腹掛けに四幅袴という格好を兼続に見られてしまったことは、政宗にとって失態でしかない。
兼続はどのように思ったであろうか。
――情けないと思ったに違いない。
手を頭の後ろで組むと、政宗はそのまま背を倒し、縁側に上半身を預けた。眩い太陽が、片方しかないその目を射る。
ふと後ろから手で左目を塞がれた。見覚えのある白く骨張った手だ。
「目を悪くする」
「元より片目じゃ」
傍らに座した兼続がゆっくりと手を退ける。覗き込んできたその表情は、僅かに寂しげに目を細めていた。
「――そう言うな」
ぽつりと漏らしたような言葉に、政宗は起き上がった。
「……その、すま…ッ!?」
顔を上げた途端に頬に押し当てられた冷たさに、政宗は素っ頓狂な声を上げた。
「はは、冷たいか?」
井戸で冷やしてきたのだ、と言いながら兼続は、政宗の左頬をその手で包む。
「氷ほどではないが冷たいだろう」
ひやりとした感覚とともに伝わる微かに濡れた肌の感触に、政宗は言葉を失った。
「無論、瓜も持ってきたのだぞ」
触れていた手が離れる。反射的に政宗はその手を掴んでいた。
「――政宗?」
戸惑うような兼続の声にハッと気付いて、視線を上げる。兼続は不思議そうに首を傾げていた。
「す、すまぬ」
慌てて右手を離す。
名残惜しい。その思いが無意識に起こした行動に、政宗は動揺を隠せない。
「名残惜しかったか?」
「なッ!?」
己の内心を言い当てられ、政宗の心臓が跳ねる。
はは、と声を上げて兼続は笑った。
「名残惜しければ、井戸の水でも被ってくると良い」
「誰がするか! このッ! 馬鹿め!」
要らぬ心配をしたと、政宗は声を張り上げながらも、胸を撫で下ろす。
「ならば、大人しく瓜でも食べているのだな」
塗り盆に並んだ四つの真桑瓜。そのみずみずしい香りに鼻をくすぐられ、勧められるままに政宗は一つを手に取った。
一口齧った黄緑色の果実は涼やかに冷たく、その味は殊の外、甘く感じられた。