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土中の

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「君はダチョウだね」
「それって褒め言葉?」
「知ってるかい?ダチョウってね、自分の身に危機が迫ると、頭を地面に入れてしまうんだよ」
少年は湯飲みの縁を何度も撫でる。
「へぇー、そうなんだ。でも何で?」
「敵の姿が見えなくなるからだよ。嫌なもの、受け入れ難いものから逃避するための行動さ。実際には、襲い掛かる敵の姿が目に入らなくなるだけで、状況は変わってないんだけどね」
「現実から目を逸らしてる分、寧ろ状況は悪化してるよね」
出されたお茶は既に冷え切っていた。
「君そのものじゃないか。バクラからもたらされる全てを嫌悪し、拒絶し、忘却した君は、頭を地面に埋めた滑稽なダチョウだよ」
「それを言うために、わざわざ日本へ来たの?」
「……そうだよ」
「そう。…あのバクラも、意外と愛されてるんだねぇ」

少年が、ガタリとイスを蹴って立つ。

揶揄するような言葉が怒りを買ったのかと、獏良は反射的に身を引いたが、一向に殴りかかってくる気配はない。
自分を見下ろす長身の少年は、ただ黙って目を見開いていた。


「思い出したのか…?」
やがて搾り出された声に、獏良は首を横に振る。
「遊戯君たちから聞いただけ。未だに信じられないけど、どうにも本当のことらしいから」

再びガタンと音を立てて、少年はイスに座り直した。その暗く沈んだ瞳は、失望とやるせなさで満ちているように見えた。
獏良にとって沈黙は決して苦痛ではなかったが、少年の辛そうに歪んだ顔を見ていられなくて口を開く。



「僕が頭を地面に突っ込んだ間抜けなダチョウなら、そのダチョウを守ってくれていた仲間に一層感謝しなくちゃいけないんだろうね」



瞬間、今度こそ獏良は殴られた。





「お前を守っていたのは遊戯たちじゃない!バクラだ!!」
「…皆から話を聞く限りじゃ、彼をダチョウに襲い掛かるライオンとは思えても、ダチョウを守る仲間とはとても思えない」
「それは、遊戯たちから聞いた話だろう!?人伝じゃない、お前が受け入れていたアイツ自身を思い出せば…!」
(身構えた時は来ないで、無防備にしてたら来るんだもんなぁ…)

薄っすら腫れ上がった頬を擦りながら、怒りで震える少年の拳を見つめる。
加減してくれたのだろうか。殴られた横っ面よりも、イスから転げ落ちた拍子に強かに打ち付けた腰の方が遥かに痛かった。

痛いことは好きではない。けれど痛みには慣れてしまっていた。その痛みに常に付き纏っていた筈の黒い影を、今はもう思い出せない。






「君は優しいんだね」
「それ、殴ってきた人間に言うことか?」
「僕の仲間は、忘れてしまっても仕方がないと言っていた。寧ろ、その方がいいとも。でも、君は違う。彼と真正面から向き合った君は、僕に思い出せと言う…」
どこかずれた言葉を吐く獏良に脱力しそうになった少年は、そのままマイペースに進む話を黙って聞いた。

「多分、君の言う通り、バクラは僕を守っていたんだろうね」
「…何故そう思う?」
「君は嘘を吐くような人間に見えないもの」
今度こそは正真正銘、脱力した。
こう見えても少年は、かつて世界を叉に掛けた犯罪組織の総帥なんてものをやっていたりした。そんな人間をつかまえて「嘘を吐くようには見えない」とは、胸倉を掴まれ床に尻餅をついたままの格好で言う台詞ではない。普通。

「何だか調子狂うな…」
「向き合うことは大切だよね。僕は痛いことは嫌いだけど、もう自分で受け止めなきゃいけないんだ」
代わりに痛みを背負ってくれる人はもういない。醜く残っていた傷跡ごと、彼は身体にあった苦しみを全て持ち去っていった。
そしてその代償とは、これから一人で向き合わなければならない。


「これでよかったんだよ。人間には元から、苦痛の身代わりになってくれる人なんていないんだから」
「………」
「でも、彼のことはもう一生思い出せないと思う」
「そっ、それじゃあ…全てと向き合うことにはならないじゃないか!」
「違うよ。向き合うために思い出さないんだ」
再び篭められた胸倉を掴む力に逆らわず、獏良は静かに少年を見返す。グイと引き上げられて、間近に迫った少年の瞳が動揺に染まった。

作品名:土中の 作家名:竹中和登