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土中の

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「彼の話を聞いて思い出そうとすればするほど、全く何も出てこないんだ…」
「どういうことだ?」
「僕自身が思い出すことを拒否しているというより、意図的な何かで妨害されるようにも感じる」
「まさか…!」
「彼がそう望むのなら、僕もそうあり続けるしかないでしょ。それこそが彼と向き合うことなんだと、彼自身が決めたようだから」



お前、忘却を望んだのか。その存在をまるごと忘れてしまうよう、そう望んだのか。
お前が、目の前の勝利を捨ててまで選んだものだぞ。最終的にはどうであったか分からないが、それでも確かにお前が守った人間だぞ。

バクラ、お前は本当に、それで良かったのか。




「ダチョウはね、頭を地面に突っ込んでろってライオンに言われたんだよ。敵(かたき)のライオンにそう言われちゃ、もうどうしようもないじゃない」
寂しさを湛えた目と震える声に、少年はそっと手を外した。目の前で項垂れる白い少年が、初めて心の底から哀れに思えた。

バクラに散々振り回されたこの少年は、その彼を恨むことも憎むことも出来ないのだ。忘却とはつまり、そういうことだった。
自分は、父を殺した名もなきファラオを憎むことで生きてきた。復讐という目的と大いなる野望があったからこそ、外へ出て新たな生を歩み出すことができた。その執念は大きな勘違いに支えられ、償い切れない過ちと罪と闇を多く生み出したが、これまでの生きる糧であったことは紛れもない事実だった。その償いをするためにも、過去を知り向き合うことが必要だった。

しかし獏良は、その機会をも奪われてしまった。
人生を引っ掻き回されたこと、それからずっと一緒にいたこと、最後まで身勝手な真似をしていったこと、それらに向けられるべき本来の獏良の感情は、宙ぶらりんになったままどうなるのか。





「エジプトに来い」
「……え?」
「どうせアイツ自身の力じゃなくて、リングの力を借りたんだろう。なら、何とかなるかもしれない」
「…えっ、え?」
「砂に埋まった千年アイテムを掘り返すんだよ。リングだけでも」
「む、無理だよそんなの!アテム君を冥界に送った今、役目を終えたアイテムはもう…」
「御託はいい、少しでも可能性があるならやるべきだ!」
少年は、座り込んだ獏良の手を掴んで引っ張る。有無を言わさぬ力強さで立ち上がらせると、そのまま玄関へ引き摺っていく。獏良は当然、慌てて抵抗した。

「ちょ、待ってよ!マリク君!!何処へ連れて行く気!?」
「空港に決まってるだろ。善は急げってヤツ」
「今から!?急すぎるってば…!」
「了はバクラのこと思い出したくないのか?」
「………」
「ホントに一生忘れたままでいいのか?」
「そんな、そんなこといきなり言われても分かんない……分かんないけど、取り敢えず外国行くならパスポートがないと…!」





やがてパスポートの入った小さな鞄だけ握った獏良と、それをまるごと抱えるようにして連れて行くマリク少年は嵐のように通り過ぎ、マンションの扉は静かに閉じられた。
作品名:土中の 作家名:竹中和登