二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

つれていって

INDEX|1ページ/2ページ|

次のページ
 
その日、フェリは朝から落ち着きがなかった。

 居間でくつろいでいる兄の前で、行ったり来たりを繰り返している。
 時々窓から外を見ているのは、そろそろ到着するはずの相棒を待っているから。遅刻魔のフェリが珍しく準備完了しているのは、ここ数日子供のようにはしゃいでいた弟を見かねて、ロヴィが手助けしたからにすぎない。
 ああウゼえ。いっそ外に放り出してやろうか。ロヴィがそう考えた時、フェリが歓声とともに窓を開けた。
 外から流れてくる、冴えた空気に混ざったエンジンの重低音。かすかに、起動中の機械が発する独特の匂いもただよう。
「兄ちゃん、ルッツ来たよ! 俺、行ってくるね」
 言うが早いか、フェリは窓から飛び出した。ロヴィが面倒くさそうに手を振ったのも目に入らない勢いだ。 
 前庭に響いていたエンジン音が、とすんと止まる。キーも抜かず、騎乗の男は近づくフェリに手を挙げて挨拶した。
 上から下まで黒づくめ、ライダースーツ姿のルートだった。ヘルメットを脱ぐと、明るい金色がこぼれる。
「ルッツルッツ! うわぁ、格好いいよ! うん、すごくいい!」
 バイクから降りたルートにまとわりついて叫ぶフェリ。普通の男ならまずバイクに目がいくはずだが、フェリはまっすぐ友人の姿を誉めた。
 その事にルートは気づいたが、フェリは全くお構いなしだ。
「へえ、BMWか。いつ見てもゴツいデザインだよな。お前んちらしいっつーか」
 窓越しにロヴィが声をかける。
 ルートの愛車。BMWバイクの中でもクラシックな、カウル(風防)のない機能性一点張りのデザイン。いまだにファンの多い、BMWと言えばこれだろうと全力で主張しているような機体だ。
 未舗装路でも安定した走りが期待できる、長距離ツーリング向けの実用性……だっけ? まんま持ち主の性格じゃん。と、ロヴィは思った。
「二人でツーリングって聞いてたけど、まさか『それ』を使うとは思わなかったぞ」
 男同士でタンデムかよキメぇ。というロヴィの予想は外れていた。
「俺も乗るのは久しぶりだ。整備に予想外の時間を食った」
 笑うルートの足元。バイクの右に寄り添う小さな車体に抱きついて、フェリが叫んだ。
「う~わ~、サイドカーだ! 懐かしいなぁ」
「……自分で乗れもしないのに、ツーリングに行きたいとか言い出した時にはどうしようかと思ったぞ」
「乗れないんじゃないよ! 時々転ぶだけ」
 ため息をつくルートを、「こいつ、馬鹿じゃねえの」と言う目つきで見ているロヴィ。
「付き合いがいいにも程があるつーか。ほっときゃいいのにさ」
 え~兄ちゃん酷い! と、フェリが叫ぶが、ルートは少し笑っただけで何も言わなかった。
「準備はできているか?」
 はいであります! と元気に答えるフェリも、ライダースーツを着ている。元は赤だったのだろうが、イイ感じに着こなれて落ち着いた赤銅色になっている皮装備。
「兄ちゃんに借りたんだ。いいでしょこれ」
 ヘルメットとってくるね~。と家に駆け戻ったフェリが、荷物を色々持ってすぐに戻ってきた。
「ねえ、いつもつれていってくれてありがとうね」
 サイドカーに乗り込んだフェリが、ルートに笑いかける。ヘルメットのカバーを降ろそうとしていたルートの手が、止まった。
「それは、逆だ」
「え?」
「お前が俺を連れていくんだろ」
 なんでそうなるの? と、フェリが首をかしげる。
「わからないなら、別にいい」
 そう呟いて、ルートが力強くペダルを踏み降ろす。キック一発で、BMWのエンジンがうなり始めた。
 つれていって。と口にするのはフェリだが、その意志表示なくては、ルートは自分からあまり出かけたりしない。
 だから主導権を握っているのは、実はフェリの方だとルートは思っている。菊なら、彼の気持ちが判るかもしれない。
「じゃ、フラン兄ちゃんちでボジョレー・ヌーヴォー飲み放題の旅に、出発! おみやげ持って帰るからね兄ちゃん!」
「フランの家で、強奪する気かお前は! ワインくらい自分で買え!」
 呆れ声で答えたルートが、楽しげに笑う。
「頑張れ弟。兄は期待しているぞ」
 棒読み口調で見送るロヴィ。心なしか視線が冷たい。
「途中で俺、運転変わるよ! これなら、転ばないし」
「車とも、バイクとも違うテクニックが必要なんだが」
「練習するよ!」
「……いいから座ってろ!」
 大声でかわされていた会話が、回転数の上がったエンジンの響きにかき消される。フェリは振り返り、再び兄に手を振った。ひらひらと振り返す手は、「さっさと行け」と追い払われているようにも見えるが気のせいだろう。
 
 遠ざかるバイクを見ながら、「俺も出かけようかな」と呟くロヴィだった。

作品名:つれていって 作家名:玄水