恋は銭湯~サンプル~
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「俺席取っておくね。帝人君は、これで好きなの買っていいから。あ、あと俺はコーヒーで。」
「わかりました、ありがとうございます。」
「どーいたしましてー。」
臨也は財布をポンと帝人に手渡し、混んだ店内を悠々歩いていく。
帝人は恐る恐る財布を開いてみて、一旦閉じた。
もう一度開いて見てみるが、中身は変わらない。
カード類はそこまで多くなく(ていうかカード入ってるのに渡さないで欲しい)、万札…しかもピン札ばかり束になって入っていたのだ。
とりあえず帝人は、もし強盗が来たとしても離さないようにしようと決意しつつ、1枚くらい貰ってもばれないかな、なんて一瞬だけ思った。
一瞬の犯罪意識くらい、誰にだってあるはずだ。
例えばこの財布が静雄やセルティのものだったりしたら、一瞬たりとも貰おうだなんて思わない。
なんか、ちょっと、臨也の場合イラッときたのだ。(人が1日97円生活だというのに!)
そんな事を考えている内に帝人の順番になり、注文する。
ドリンクを聞かれて、帝人はオレンジジュースを、そして臨也には先程のイラつきの仕返しにシェイク(ストロベリー)を頼んでやった。
決して、自分が少し貰いたいからでは、ない。
臨也の居る席に向かうと、この混んでいる中どうやったのか、臨也は4人掛けの席に陣取って、ポチポチ携帯を弄っていた。
近くにキャーキャー言っている女子高生達が居るから、もしかしたら追い出したのかもしれない。(顔だけは美形なので、無駄に爽やかな笑顔で)
ちょっと恥ずかしくて、ササッと臨也の前に座ってトレイを置くと、臨也はすぐに携帯を閉まって笑顔で帝人を迎える。
帝人は預かっていた財布と臨也の分の飲み物(ストロベリーシェイク)を渡すと、いただきますと告げてそそくさと食べだした。
臨也は受け取った物が頼んだものではないとすぐに気付いて眉を上げたが、何も言わずにストローに口をつける。
帝人はまぐまぐとハンバーガーに齧り付きながら、視線を上げて臨也の様子を確認しようとして。
固まった。
視線は一点に向かい、呆然としていて口も止まっている。
その口元にはケチャップがついていて、臨也は自然な動作でそれを拭い、己の口にいれた。
しかし普段なら真っ赤になって責めてくるはずの帝人は固まったままで、臨也はどうしたのか、と声をかけようとして。
「りゅ、竜ヶ峰じゃねぇか、こんな時間にメ……シ……、」
響いた声に、すごい勢いで背後を振り向いた。
本編に続く…
作品名:恋は銭湯~サンプル~ 作家名:ぎとぎとチキン