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家庭教師情報屋折原臨也2

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 2

 その日、静雄はいつもより早めに家を出た。特に理由はなかった。なんとなく早くに目が覚め、そのままいつものように朝食をとり、顔を洗い歯を磨き、制服に着替え、授業の用意を鞄に詰めなおし、家を出た。弟は家に帰らず次の映画の撮影のために北海道に飛び、母親は昨日遅く帰ってきたため、まだベッドの中だった。父親は単身赴任中のため家にいない。静かなままの家を出るのは久しぶりだった。
 早く出ればその分登校に時間もかけることができたので、静雄はいつもと違う道で学校に行くことにした。

 副都心である池袋には、朝から大勢の人が流れていた。しかしいつもの時間よりは少なかった。静雄はふらふらと人の間を縫って、まだ開いていない店の前で並ぶ大人を横目に見て、モーニングで賑わう喫茶店や人が来なくて暇そうな店員がレジに立っているコンビニの前を過ぎ、公園を抜けて広い通りを進んだ。
 その通りは区役所に面し、それなりに人通りはあった。それでも、60階通りに比べたらずいぶん減っている。歩いているのは殆どが会社員で、学生もちらほらいるが、来良学園の生徒は一人も見当たらなかった。
 別の道を通って行こうかなと考えていたところで、ふと、声が入ってきた。すぐ近くから聞こえたのであたりをぐるりと見回すと、数歩先の角の奥からだと分かった。見向きもしないで通り過ぎればよかったのだが、言葉にならない音の中唯一はっきりと聞き取れた名詞に、静雄は足を止めた。
 ――― 『情報屋』?
初めて聞く職業ではないが、実物に出会うのは初めてだった。半ば興味本位で静雄は建物の陰から、こっそりと路地裏を覗いた。
 すると、作業着のような服を着た大柄の男二人と、フードを被った男がいた。小声で何かを喋っていたが、内容は全く聞き取れなかった。何か焦っている男二人の方に比べ、フードの男の方は余裕そうだった。こちらが情報屋だろうと静雄は思った。すると、フードの男が喋った。やはり何を言っているかは聞こえない。聞こえるのは僅かな声のみだった。たった一、二言のようだったが、何か男たちに対して有益なことを言ったのだろう。男たちの様子から焦りが消えた。そして彼らはフードの男に対し、紙幣を4、5枚ほど出して金を払った。
 ――― えっ?!
情報屋はただ喋っただけでお金を稼げるのか、と静雄は驚いた。しかも出した紙幣のほとんどに福沢諭吉がいた。フードの男はそれを受け取ると、ポケットから四つ折りにされた小さな紙を男たちに渡した。その紙を乱暴につかみ取ると、男たちは大通りの方に歩き始めた。静雄はあわてて顔を引っ込め、その場にあったガラスのショーウィンドウを鏡にして髪をいじる学生になり済ました。といってもその大通りにほとんど人はおらず、かえって学生服の姿は目立ってしまっていた。幸い、男たちは静雄に気がつくことなく反対側へと歩き去っていった。
 男たちの姿が完全に見えなくなったところで、静雄は再度路地裏を覗いた。
 ――― あれ?
そこには誰もいなかった。
「何で、いないんだ?」
この路地裏に他に抜けられる道はなく、そこから出るには静雄側に来るか、可能性は低いが壁を登って上に行くしかなかった。フード付きの男は一体どのようにしてこの場を去ったのか。気になったが、学校に行くという最優先事項があったため、静雄は探すことを諦め、学校に向かうことにした。

 静雄が隠れていたビルの屋上、そこに、“フードの男”は立っていた。その視線は学校へ向かおうと歩き始めた静雄をとらえていた。
「危なかったぁ」
屋上を吹き抜けた一筋の風が、男のフードを取った。
「これがなかったらまずかったなぁ」
黒く短い髪に、秀麗な顔つき、そして、赤い目。男の正体は折原臨也だった。
彼は作業着の男たちが去った後、壁の表面を這っていたむき出しのパイプや室外機に手を脚を掛けて壁を登り、屋上まで逃げたのだった。
「まさか、シズちゃんに出くわすとは」
臨也は、静雄が陰から見ていることに気づいていた。たまたま自分が通りの方を見ることができた位置にいたので、建物の陰から現れた金髪の学生を見ることができた。フードはもともと日が出ていたので他の人から顔を隠すために被っていたが、それが功を奏した。おかげで顔を見られることなく彼は去っていき、男たちからも金を取ることができた。
 ビルの反対側を見下ろせば、先程の作業着の男たちが黒いワゴン車に乗り込む様子が見えた。エンジンがかかり、車はそのまま路地を抜け、教えてやった目的地の方に走っていった。
「あとは君達次第だよ、   」
そう言って、臨也はビルから飛び降りた。


 静雄は学校に、始業三十分前についた。生徒はまばらかと思いきや、朝から学校が開放している図書館や自習室を使って受験勉強を進める殊勝な同級生が結構いた。教室も例外でなく、昨日に帰りにでも約束したのだろう、ある女子生徒のグループ五人が机を合わせて勉強していた。静雄が教室に入ると、彼女たちの視線が一斉に向いた。しかし朝のあいさつを交わすことは無く、彼女たちはそのまま手元の参考書に視線を戻し、互いに相談しながら問題に取り組み始めた。
 静雄も自分の席に着いて、先日臨也に解説を書いてもらった紙をもとに、もう一度問題を解くことにした。数学の、国公立大学にしばしば出題される、確立を数列で表す応用問題であった。参考書を開き、解説の紙を開いたとき、知らぬ間に挟まっていた小さな紙が落ちた。拾って見ると、小さな紙にはメールアドレスと、『割に合わないから質問があったらいつでも』というメッセージが書いてあった。
「……」
静雄はしばしそれを眺め、やがてペンケースの内ポケットに仕舞った。きっと使うことは無い。シャープペンを手に取り、静雄は解答を書き始めた。

 次に静雄が我に返ったのは、新羅に呼ばれてのことだった。
「おはよう、静雄」
「……おう」
集中していたのか寝てしまっていたのか、自分では全く分からなかった。ノートを見ると、読める字で書かれた解答の横に、何が書きたかったのか分からないねじ曲がった記号が幾つも書かれていた。
 ――― 寝ちまってたのか
新羅の方を見れば、今来たところなのか、鞄の中の授業の用意を机の中にしまっていた。次いで時計の方を見ると、後十分で始業のチャイムが鳴るところだった。まだ少し眠かったので、静雄は机の上を片付け、机に突っ伏した。