ナイフと煙草と池袋
「ふう・・・」
臨也は新宿にある事務所に戻るなり、玄関口に崩れ落ちた。
「追いかけっこなんて可愛いもんじゃないね」
あれは対戦闘機だよ、全く。
臨也はそんな独り言を呟くと、壁伝いに立ち上がり、ふらふらとした足取りでリビングに入り、上着を投げ捨て、ソファに腰を下ろす。
「ッ痛・・・」
その拍子にずきりとした、ひりひりとした痛みが右腕と肩を襲った。予想はついている。上体を確認しようと思ったが袖をまくっても見えにくい位置であったため、臨也は上を脱いだ。
「うわ・・・」
薄暗い中そこを見れば、赤くくっきりと、腕を一周する形で手形がついていた。所々内出血を起こして青黒い斑点もついている。肩もおそらく同じ状況だろう。
「これは痛いなぁ・・・あ」
その言葉を言って、臨也は逃げるためとはいえ思わずやってしまった失態を思い出した。まさか自分が必死とはいえ静雄に対しキスなどという決死の甘い行為しか思いつかずあまつさえ実行に移すなどということをやらかすとは思ってもいなかった。静雄が動揺するという予想が当たり今回は逃げ切ることに一役買ったが、二度目はないだろう。臨也としても、二度としたくない。
――― 口洗おう
少し物寂しさを感じながら、臨也はソファから立ち上がり洗面所へと向かった。しかし途中で足が止まった。
「・・・・・・」
僅かでも寂しさを感じた自分が忌々しいと思った。