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まるてぃん
まるてぃん
novelistID. 16324
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精霊の歌

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「そうじゃないんです。確かにクリスさんやナッシュさんと出会うことは初めから知っていました。だけど、本当なら私たちは出会うことなんてなかったでしょう? アルマ・キナンで一生を過ごすはずだった私と、ゼクセン騎士団長のクリスさん。それにハルモニア神聖国のナッシュさんなんて奇妙な取り合わせ」

ユンはおかしそうにクスリと微笑んだ。

「確かに奇妙なつながりだな」

ナッシュも同じように少しだけ口元に笑みを浮かべた。
胸のうちは決して晴れはしなかったが。

「運命…か」

声に出すつもりはなかったのに、気がつけばつぶやいていた。
頬に視線を感じて横を向けば、ユンが不思議そうな顔でナッシュを見つめている。

「ん? どうしたんだ?」

自分に向けられる視線の意味がわからず、ナッシュは少し困惑した。ポーカーフェイスはすでに板についていたが、さすがにこれほど幼い少女に何の含みもない目で真っ直ぐに見つめられると、戸惑いを隠し切れなかった。
だがユンはナッシュの問いには答えず、目を閉じると軽くかぶりを振った。ユンの動作が何に対してのものなのか、ナッシュにはわからなかった。

「ユン?」

「ナッシュさんもクリスさんと同じ」

思いがけない言葉に、ナッシュはどう返すべきかと迷った。その一瞬の逡巡のうちに、ユンはさらに言葉を続ける。

「クリスさんと同じで、とても優しいんですね」

思わず顔をしかめてしまった。
お節介だ、お人好しだとは人から散々言われるし、自分でもそんな風に言ったりしているが、「優しい」などという言葉で評されるとは思わなかった。
それもこんな年端もいかない少女に。

「俺は優しいわけじゃない。表面を取り繕っているだけだ」

なぜこの少女にそんなことを言ってしまうのか、自分でもわからなかった。
ペースを乱されているという自覚はある。けれど、無理に本来の調子に戻す必要もないような気がした。

「優しいですよ。だって私のことで心を痛めてくれているでしょう?」

ユンはナッシュのほうを向いて、優しく微笑みかけてきた。
とても13歳の子供とは思えぬほどに慈悲深く。

「ただ俺は、今夜の儀式であんたひとりが犠牲になるのはフェアじゃないと思っただけだ」

それはへたな言い訳のようだと、自分でも思った。

「ふふ。やっぱり。でもね、ナッシュさん。これは犠牲じゃありません。私は守り手となるんです」

ユンはどこまでもほがらかにそう言った。

「守り手?」

「そうです。今夜の魂送りの儀式で、私は肉体の枷を離れて、この世界の一部になります。そうして私は私の大切なものを守ることができるようになるんです」

どこか誇らしげに、ユンは小さな胸を張って言う。
顔には満面の笑みを湛えて。

「それがあんたの運命なのか?」

少女の笑顔を見つめて問えば、即座に答えが返ってきた。

「そうです。こうなることを私は生まれた時から知っていましたから」

だとしたら人生とは、人の意思とはいったい何なのだろう?
すべてが初めから予定通りに起こるべくして起こっているというのなら、人は何のために考え、悩み、傷つきながらも歩き続けているのだ?
未来はたったひとつ。すでに決められているというのに。

蘇るのは血の色。
心を切り裂くような悲鳴。怯えと憎悪の入り混じった翠玉の瞳。
黒髪を翻し、闇色の輝きを湛えた瞳が、憎々しげに歪められる。
煌く刃。

そっと温かなぬくもりを頬に感じて、ナッシュはわずかに身じろぎした。
現実に引き戻された視界に、先ほどまで見ていたものとは違う強い意志を秘めた黒い瞳が映し出される。
ひどい夢から醒めたように、ナッシュは何度か瞬きした。

「ナッシュさん。運命は人の意志の集まりです」

自分自身の言葉の意味を確かめるように、ユンはひとつひとつはっきりと言葉をつなげていく。

「運命が先にあるんじゃない。私たちの想いが運命を作っていくんです」

目の前でそう断言する少女は、どこまでも清らかだった。
何がこの少女をここまで強くしているのか。まだ誰かが守ってやらねばならない子供だというのに。

「……まったく」

ナッシュはひとつ溜息を吐くと、おもむろにユンの頭を引き寄せた。ユンはナッシュの突然の行動に慌てたように抗議する。

「ちょっと、ナッシュさん!?」

「いいから、少しは黙って甘えてくれないか? 子供に説教をされっぱなしじゃ、おじさんの立つ瀬がないだろ?」

強引に腕の中に少女の頭をすっぽりと包み込めば、抵抗していたユンの身体から力が抜けていった。

「本当にあんたはたいした女だな」

黒髪を優しく撫ぜてやる。

「そんなことないですよ。私はすごく弱いです。・・・だから、私、今夜ようやく魂送りの儀式を迎えることができて、本当にとても嬉しいんです。この日をずっと心待ちにしてましたから…」

ナッシュに為されるがままにユンは彼に体重を預け、ゆっくりと目を閉じた。
聞こえるのは、鼓動の音。

「…私たち、父親ってものがいったい何なのかわからないけど……、もしいたらきっとこんなふうに、温かくて大きな存在なんでしょうね……」

ナッシュの胸の中で、安心しきったユンの声が響く。

「おいおい。いくら何でも俺はまだ、こんな大きな子供を持っちゃいないぜ?」

おどけた調子ではあったが、ナッシュの声はどこまでも優しく、ユンの髪を撫ぜる手は柔らかい。
くすくすとおかしそうに、ユンが忍び笑いを漏らした。

「そうは言いますけど、ナッシュさんぐらいの年のおじさんなら、私ぐらいの子供がいてもおかしくないんじゃありませんか?」

いたずらに成功した子供のような表情で顔を上げたユンに、ナッシュはやれやれと溜息をついた。

「お父さんは、そんなふうに大人をからかうような子を育てた覚えはないぞ?」

「育てられた覚えもありません」

笑いながら言って、ユンは軽快に腰をかけていた祭壇から飛び降りる。
そのまま村へと戻っていこうとするユンの背中を見つめながら、ナッシュはもう一度深々と溜息をつくと、大儀そうに祭壇から腰を上げた。
ユンのあとを追って歩き出そうとした時、唐突に彼女がナッシュのほうを振り返った。
ナッシュが何事かと眉をひそめると、ユンはそれまで湛えていた笑みを消して、真剣な面差しになった。ゆっくりと澄み渡った声で紡がれるユンの言葉は、ナッシュには精霊の歌のように聴こえた。

「あなたの一生は誰かのためにあるんじゃない。あなたの幸せは誰かのために犠牲にするものじゃない。大切な人を幸せにするためにあなたが不幸になってはいけない。あなたが幸せになるから大切な人も幸せになる」

そこでいったんユンは目を閉じ、息を吸い込む。
彼女のまぶたが再び持ち上げられた時、その黒い瞳には朝陽のような煌きが映っていた。

「幸せになってください。ナッシュさんが幸せになれば、ナッシュさんの大切な人も幸せになります。それが私が視た未来です」

その幼い頬に笑顔を浮かべ。

「さ、行きましょう?」

小さなてのひらを差し伸べて。
ナッシュは彼女の手をとると、ふたり並んで歩き出した。


作品名:精霊の歌 作家名:まるてぃん