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【新刊】好きな人ができました。【サンプル】

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 白くて長いドレスを着ている母と、同じように白い服を着て髪の毛をしっかり整えてる今よりも少し若い母さんと父さんの写真だ。
『懐かしいわねぇ、結婚式……』
 私やっぱり少し太ったかしらーと自分の頬に手を当てている母は、しばらくそうした後に僕の頬を撫でて言う。
『ねぇ、幽』
『なに』
『好きな子とかいないの?』
『すきなこ?』
 母さんも父さんも兄さんも、皆好きだよ、と言ったら、母さんは一瞬目を見開いてそれから優しく笑ってそれは違うのよ、と言った。
『お母さんがお父さんを選んだように、幽にも特別な人がきっとそのうちできるわ』
『とくべつ……』
『そう』
 でもね、と母は僕の体を抱きしめていう。
『私の大事な幽と静雄だから、その辺の女の子にはあげられないわ』
『そのへん……?』
『あらやだ、気にしないで。違うの、そういうことが言いたいんじゃなくてね?』
 クスクス、と笑う母が何を楽しんでいるのかは分からないけれど楽しそうだった母が、小さく息を吸って、それからその綺麗な顔から笑顔が消えた。
『幽に大事な大事な特別な人……好きな人ができたらすぐに教えて? 約束、できる?』
 ライトに照らされて明るい寝室で、母が小指を差し出してくるのに戸惑いなく小指を絡める。
『すぐ、言う』
 すぐに言うよ、母さん。

 あの日の約束を僕はずっと覚えていた。
 だから何の戸惑いも無く言ってしまったんだ。

「母さん、俺、兄さんが好きだ」

 せめてもう少し、もう少し時間が経っていればその異常性には気付けたはずなのに。
 約束をした夜の印象が強すぎて、好きだと思った瞬間に口にしてしまっていた。
 柔らかな頬笑みが硬直して、泣きそうな顔に歪んでいくのが今でも忘れられない。
 けれど、ごめんね、母さん。
 僕はやっぱり、兄さんのことが特別に、大好きなんだ。