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ありえねぇ!! 3話目 前編

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ありえねぇ!! 3話


ぽむぽむ
ぽむぽむ
ぽぽむ、ぽぽむ


「……お前、何してんだぁ?……」
《………はぁはぁ………、おはようございます静雄さん♪……》

帝人の首が真っ赤な顔して、静雄の腹の上で跳ねていた。
どうやら、起こしてくれたらしい。

時刻は?と、目覚まし時計を見れば左手の中にあり、盤面は八時ジャストでひび割れて止まっている。
握りつぶしたか。

「……あーあ、またやっちまったか……。今何時?」
《八時半です》

己の腹の上には一仕事をやり遂げ、達成感に満ち満ちた微笑を浮かべて首幽霊が鎮座する。
やっぱり夢ではなかった。

「ああ、おはよ」

上半身を起こし、ぽしっと彼の短い髪をかき撫でようとしたが、するりとスルーする。
でもパジャマの右袖を伸ばし、手のひらを布で覆い、再度ぽしぽしと撫でてやれば、気持ちよさそうに目を細め、幸せそうに笑ってくれた。

なんつー可愛い笑顔を向けてきやがるんだ、こいつは?

「……よ、よっしゃ竜ヶ峰、今日こそ記憶戻ったり、か……体に帰れる方法が見つかればいいな……♪」
《はい♪》

柄にもなく動揺したのは、上向きでにっこり微笑む帝人が可愛かったから。
寝起きに誰かと《おはよう》の挨拶をするなんて、高校進学で池袋に出てきて以来かもしれない。
何かいい。自然と心が弾む。
それが例え幽霊でもだ。


《さあ静雄さん、早く早く。後三十分で出勤の時間なんでしょ?》


彼は背中に回って、ぐりぐりと頭で背を押し始める。


「あー、慌てるなって。そんだけありゃ、着替えるだけだし、楽勝じゃねーか」
《朝ごはんは?》
「俺は回収業だから、外回りだろ? 小腹が空いたら、その都度その辺のコンビニで菓子パンか握り飯でも買うさ」
《そんなの栄養が偏っちゃいますよー!!》


帝人の広いおでこの下、眉毛が八の字を描き出す。
眉間にもちょっとだけ皺が寄っていたが、タバコを咥えて火をつけ、何処かに埋まっている筈のセルティから貰った手袋を発掘するのに忙しい今、彼の機嫌を取る暇はない。


「あ、わりぃ竜ヶ峰。俺寝坊しちまったから、お前をセルティに預けに行く時間が無くなった」


それどころか、病院後に連絡を入れると言って、それも忘れていた気がする。
ここには家電話もないから、携帯が無い現状、連絡も取れない。

セルティに貰った手袋は、部屋中の何処にも見当たらなかった。
一応洗濯物籠の中も探ってみたが、いくら引っ掻き回しても無かった。
どうやら一夜明け、霧散してしまったらしい。

仕方なく、今度はクローゼットをさばくって、薄手の黒い手袋を引っ張り出す。

「竜ヶ峰、お前俺が帰るまで、部屋で良い子で待てるか? TVのリモコンとかは押せるよな?」
《静雄さん、ご迷惑をおかけしますが、私、是非ついていきたいです》
「ああ?」
《池袋は、私がこの一年住んでいた街なのでしょう?記憶を取り戻すきっかけがあるかもしれないし、それに……、折角静雄さんと知り会えたのですもの。もっと一杯、素敵で強くて、かっこいい静雄さんを見たいんです!!》

彼は、この天然さで人が殺せるのだと思う。

熱っぽい目をハートマークにし、キラキラと星を浮かべ、見上げられた瞬間、静雄の顔もじわじわと熱くなり。

「馬鹿いってんじゃねー、大人をからかうな!!」

耳まで赤くなった事を知られたくなくて、ぺしっと軽く手袋を装着した手のひらを振り回した。そう、静雄はかるく叩いたつもりだった。
なのに、帝人の首は哀れにも、勢い良く吹っ飛び、べしゃりと顔面から天井と衝突する羽目になった。

「……あー、悪い竜ヶ峰……」

かしかしと金髪頭を掻き毟りながら見上げれば、自分の手が届かない天井で、後ろを振り向いたまま、えぐえぐと声を押し殺し、すすり泣く声が耳に届く。

「……もうちょっと……、だけ……待って……、ひっく……大丈夫です。静……、さん……ワザとじゃないから……、気にしないで……、ひっく……」

帝人も男のプライドがあるだろうし、結果的に手を上げ泣かしたのは自分だ。
気まずい。

「会社さ、連れてってやるから。後25分ある……、すまんが、それまでに泣き止んでくれ………」
「……あい……、頑張り……、ぐすぐす……、ます……」



★☆★☆★


九時半。


「トムさん、おはようございます」
「おー、静雄。昨日病院で親御さん達に切れなかったか?……」


出勤すると、休憩所のソファーで、新聞を読みながら寛いでいたトムが顔を上げた。
だが、笑顔がみるみる蒼白になり、そのうちずさささささっと後方へとびずさり、ソファの背凭れから一回転して転がり落ちた。

お笑い芸人のコントか?


「トムさん? 何体張ったギャグやってんすか?」
「し、しず……、静雄、その!! お前とうとう……、やっちまったのかぁぁぁぁぁぁ!!」
「はぁ?」

尻餅をつき、がくがく震え、人差し指を突き出している。
それは静雄の左手に、まっすぐ向っていた。

今日の彼に、別に変な所はない。
いつものバーテン服に、自宅にあった黒手袋を装備しているだけ。
だが、左手には確かに帝人の首を、後頭部から引っ掴んで連れている。

なんせこいつは進むスピードが飛ぶ風船レベルだから、こうして掴まなければ、静雄の歩調に全然追いつけず、会社にも当然間に合わなかっただろう。

《……あの〜、もしかして、貴方も私の姿、見えるんですか? ……》
「しゃべった!! 首!! しゃべったああああああああ!!」
《見えているんですね♪ わ〜い♪♪ わーい♪♪ 静雄さん、三人目発見です♪♪》


トムは相変わらずガタガタに震えているというのに、帝人は暢気にも、顔を上気させてぴょこぴょことはしゃいでいる。


「トムさん、安心してください。首幽霊は、無害ですから」
「幽霊? 幽霊が白昼見えるわけねーだろ!!」
《すいません、私規格外みたいで……》

しょんぼりと俯きつつ、ちらちらとトムを見上げる。

「やめてくれぇ〜〜、そんなチワワのような目はよう〜〜!!」
「あ、やっぱりしっかり見えているんすね」
「何が一体どうなっているんだ!?」
「……本当に色々ありまして……、俺にもさっぱり」

《昨夜、病院に泊まるとお化けが出そうで怖くて。困っていたら、静雄さんが家に持ち帰ってくれました。本当に優しくて良い人ですね♪ 私、静雄さんの事、大好きです♪》

【大好き】などと、言われ慣れていない言葉がほこっと胸に染み、じわじわとまたほっぺが嬉しさに赤くなる。
だが、青を通り越し、土気色の顔色に変わったトムが、今度は自分に指を突きつけてくる。

「静雄!! 今すぐ拾った場所に捨てて来い!! 地縛霊を連れて帰る馬鹿がどこにいる!! お前は取り憑かれているんだ、嫌、誑かされてるんだ!! 死ぬぞ!!」


途端、帝人の眉は八の字に下がり、じわっと涙ぐむ。
自分も、多分同じような顔になっているのだろう。

《うううう、やっぱり私、ご迷惑……ですよね……》
「そんな事はねぇぞ、竜ヶ峰!!」

がしっと帝人の首を、ラグビーボールのように抱え込む。