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ありえねぇ!! 3話目 前編

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「トムさんは、こんな困った竜ヶ峰を見捨てろっていうんですか!! 五体満足の幽霊ならまだしも、こいつ首しかないんですよ。それにどんくさくて、風船レベルの速さでしか飛べねぇっつーのに、走ってきた看護婦に弾き飛ばされ、天井で鼻打ってえぐえぐとベソかくような奴なんですよ!? それを放り出せなんて……俺にはできません!! 酷(むご)い、酷すぎる!!」

「え、ちょっと待て。そいつ【竜ヶ峰帝人】?」
「だからそう言ってるじゃないっすか!?」
「言ってねぇよ。そうか、そうか……信じられねぇけど、頼むから、【涙ぐむドーベルマンと、捨てられる寸前なチワワの組み合わせ】な其処二人、俺に判るように、何があったか説明しろ」


トムは大きく溜息をつき、立ち上がると、スーツについた汚れを手で払いのけ、どっかりとソファに腰を降ろした。


「大体お前は言葉足らずなんだから、静雄。【池袋最強】が生首持ってとことこ入ってくりゃ、誰かのを捻り切ってきちまったと誤解したって、仕方ねーだろ」

《静雄さんは、そんな酷い事するような人じゃありません!!》

「はいはいミカドちゃんは優しいねぇ。でも、静雄の話より、俺は今の所君の方が気になるなぁ。なんで生首の幽霊になってるの? 確かニュースで見たけど、意識不明の重体でしょ? 魂だけふらふら出歩いて、このままぽっくり逝っちゃうって事ないの?」

《ううう、なら私、死んじゃうんですか?》
「トムさん、それ本当ですか?」

「TVで見たネタだから、あんまり良く覚えてねぇけど。何かのオカルト特集でさ、肉体と魂を繋ぐ糸がぷっつり切れたら、その魂はあの世にいっちまうんだとよ」

再び、うるうると潤んだ目で、お互いを見詰め合う。


《どうしよう、静雄さん? 私の糸って、ありますか? ついてますか? 切れる前に体に戻れますか!?》
「落ち着け竜ヶ峰。セルティと新羅が調べてくれている筈だ」
《死にたくないです!!》
「判った判った。俺が助けてやるって言っただろう?」
《静雄さん、大好きです!!》
「お、……おう、任せておけ!!」

頬杖をつきながら、二人を観察していたトムが、再び大きな溜息をついた。

潤んだ目をキラッキラさせ、静雄を見上げる純真少年の首と、言われ慣れていない【大好き】攻撃に、心を弾ませてテレまくる純情青年。

根本が似てるのだ、この二人は。
犬属性で、天然で、トラブルメーカーの匂いがぷんぷんする。


トムもここで見捨てられるぐらいなら、【静雄犬】を自分の部下に,拾い上げたりしなかっただろう。
その駄犬がまた捨てワンコを拾ってきたのなら、もう突き放せる訳がなかった。


ドレッドヘアを掻き毟り、額を押さえて、再度大きく溜息をつく。
彼の性格上、貧乏籤と判っていても、諦めざるをえない。

「ただ、一言だけ言わせてくれ。こんな首だけになって、明るいポケポケとした幽霊なんて……、ありえねぇだろぉ……!?」


田中トム、魂の叫び声だった。
世界を二人だけで作ってしまった奴らの耳に、届くことはなかったが。





★☆★☆★





回収作業に行く道すがら、静雄はトムの勧めで携帯を新調した。
最初に行ったのは、新羅への電話報告だった。


『あ、やっぱり無理だったんだね』
そんな能天気な声にイラッときて、額に青筋が浮ぶ。

「っつー事は、てめぇ予測してやがった癖に、あえて俺達を行かせたのか?……、一度死んどくか?」
『待ってよ静雄!! 帝人君の幽霊が首だけになってて、しかも記憶を失っているって聞いたのは、彼女が帰宅してからなんだよ? これは不可抗力じゃないか!?』

受話部分を耳から離して、新羅の叫び声をやり過ごす。
タバコのフィルターをがじがじ噛みつつ、トムと帝人の首を見れば、二人は神妙な面持ちで、聞き耳を立てていた。


「で、何か掴めたのか?」
『デリケートな話だから、詳しい事は夜に説明するよ。私もまだ、裏付けで色々と調べなきゃならないし』

「それと、竜ヶ峰がこのまま死んじまう可能性は?」
『推測だけど、身体が死なない限りは大丈夫だと思う。さっき、情報屋経由で病院の電子カルテのデーターを入手して読んだけど、帝人君は若いし、例え植物人間扱いになったって、数ヶ月は持つ筈だよ』

「ならいい。今晩仕事が終わったら邪魔する」


通話を終え、青い携帯をポケットに突っ込む。
新羅は【情報屋経由】と言葉を濁していたが、多分臨也の事だろう。
ノミ蟲野郎は、紀田が言っていた通り、相当竜ヶ峰に関心を持っていると見える。

マジでウザい。
一体、彼をどう操るつもりだったのだろう。
(やっぱり、いっぺん殺しとくか)


「という訳で、今晩新羅の家に、行くことになったっす」
《新羅さんって?》
「闇医者だよミカドちゃん。静雄の小学校の頃からの友人」
《なら安心ですね♪》

ぽやぽやっと顔が輝くが、新羅が常日頃、自分を隅々まで解剖したがっているなんて聞いちまったら?
(この顔もきっと、怯えちまうんだろうなぁ)

【帝人を体に戻してやる】という目的が無ければ、断然近寄らせたくない相手だが、静雄は医療関係に詳しくないし、頭も良くない自信がある。
例え奴が奇人変人だとしても、色々と調査を担当してくれる存在は有難い。


「つー訳でトムさん、今日も俺頑張るっす。竜ヶ峰、仕事のノルマをとっとと終わらせてさ、セルティん所へ行こうぜ。お前を絶対、元の身体に戻してやるからな♪」
《はい、嬉しいです静雄さん♪ 私も精一杯応援しますね♪♪》


そうキラッキラとした目で、可愛く静雄を見上げていた帝人だったのに。
それが崩れるのは数十分後。


「あ〜……、トムさん。俺、できれば、竜ヶ峰に汚い世界は見せたくないんすけど……」
「……諦めろ静雄。何かさ、この子すげーよ。一体何者だべ?……」

そうぼやく自分達の気持ちなどお構いなしに、現在【竜ヶ峰帝人】は絶好調で、取立て業の最前線に、文字通り【首を突っ込んで】いやがりやがる。


事の始めは、最初の不払い客が原因だった。



そいつは静雄とそう年が変わらない優男で、1Kのマンションに住んでいた。
彼は静雄達の管轄するレンタルDVD屋から、アダルトDVDを大量に借り、返却を拒み続けていたのだ。
遅延料金だけで15万円以上にも膨らんでいたのに、更に許しがたい事に、それらを大量にコピーし、ヤフーオークションで売りさばいて金銭を儲けていたなんて。

トム曰く、レンタル店の【営業妨害】も甚だしい上、【コピーを売り切ったら金を払う】と、抜け抜け言う所もまた憎たらしい。

「兄ちゃんさぁ、舐めるのも大概にしとこうな♪ うん?」

静雄はあくまでトムのボディガードだ。
だから上司が玄関口で、違法行為を堂々と行っている馬鹿の胸倉を掴み、揺さぶって脅しをかけている姿を、一メートル後方で見守りつつ、静かにタバコをふかしていた。

どの道、室内は不健康な程真っ白なDVD-ROMが、薄い収納ファイルに個々に納められ、大量にダンボール箱に入ったまま散乱していて、足の踏み場もない。静雄まで乗り込めば、多分雪崩れを起こすのではないかというぐらい、積み上げられている。