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紅の識者

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     ※   ※   ※

執務室に入る前から扉の隙間から、なにやらドス黒いオーラが出ていて、朝の書類を持ってきた隊員は、どうにも部屋に入ることが出来ない。
普段なら隊長室であっても、他の隊でありがちな敷居の高さとか変な緊張感とか感じずに入れる部屋なのだが、今日、この時は違った。何故今日の当番が自分だったのだろうと、己の不運を嘆く。
意を決して扉を3回ノックする。
「失礼、します・・・本日の書類を持ってきました・・・だ、大丈夫ですか?」
入った瞬間、やはり己の感は正しかった。部屋中に立ち込める重く暗く苦しい空気。
窒息死しそうである。
「・・・そこ、おいといて」
今にも死にそうな声が返事の主は、机に突っ伏し、顔は全く正反対の方を向いていて、どんな顔をしているのかまでは確認できない。
よしんば見れたとしても、声に相応しい瀕死の形相だろう。
筆も握らず、見詰める方角は、窓の外、ではなく、確実に今日非番である隊長の執務机。
「あの、黒崎隊長のお休みは今日一日ですし、明日になればまた会えますよ」
気休めにしかならないだろうが、己の隊の副隊長のあまりの落ち込みように、気遣いの言葉をかけた。
「うん・・・ありがと・・・」
やはり気休めにしかならなかった。
隊員が書類を置いて部屋から出て行けば、また物音一つしない静寂が戻る。
隊の規律で、隊長を含む隊員全員が一週間に一日休みが与えられる。
他所と比べれば厚遇過ぎる厚遇だろう。
喜びこそすれ残念がる者はいない。
浦原を除いて。
「黒崎サ〜ン・・・」
誰も座っていない席に向かって名前を呼んでみても、当然返事はなかった。
当たり前である。
だが、もしかしたら自分がサボらないよう影で見ていて、姿を現してくれたりしてくれないだろうかと、奇跡にも等しい可能性に期待してしまう。
しかも、名前を呼んでみたら余計に逢いたくなって、無償に寂しくなった。
呼称間違いで5点マイナスされてもいいから、声が聞きたかった。
出来ることなら仕事をサボって、休暇を満喫しているだろう一護をこっそり見に行きたい。
だが、それを見越していたかのように、浦原のお目付け役が隣の応接ソファーでのんびり毛づくろいしているのでサボれない。
優雅に舐めるその仕草が恨めしい。
「夜一サンも大変ですねぇ、せっかくの非番にこんなつまらない雑用押し付けられちゃって。アタシのことは気にせず、どこか遊びに行ってきたらどうです?ちゃんとサボらず仕事してますから。」
「見張り役を申し出たのはワシからじゃ。気にするな。それより書類が届いたではないか。早う仕事せい。」
夜一が素気無く一蹴してやっても、当人は反論するどころか、仕事をする様子は一切みせず、大きなため息をして机に平伏すのみである。隊員が置いていった書類をチラリと見やるが、あれくらいの量なら浦原が本気をだせば午前中には終わるだろう。だが、終わったからと帰れなかった。
終わったら隊員達の仕事の手伝いをしろと言い渡されていた。
自分の仕事ならまだしも、浦原に他人の仕事までやる甲斐性は皆無だ。
「たった一日逢えぬくらいで」
「たったじゃありません。一日も、デス。24時間も、デス」
「分かったから、その辛気臭い顔をどうにかしろ。鬱陶しい。」
「だったら本気でどっか行けばいいじゃないっスか」
「本気というなら、たまには一護にも自由な時間をやれ。タダでさえ毎日好きでもないおぬしと顔を突き合わせておるのだ。これでは一護の方が参ってしまう」
特に『好きでもない』部分を強調して夜一は言った。一護しか見えていない浦原を見ているのは正直楽しい。これまで見たこともないようなことをしてくれるのだ。一護をネタにからかうことも出来る。
だが、一護の方はどうだろう。どんな相手であったとしても、好意を向けてくるものを、あの子供は邪険に出来ない。本人もハッキリ相手に拒否の意思を伝えてはいるが、如何せん、相手は浦原だ。
一度として人間相手に興味を持ったことが無い――夜一が知る範囲だが、間違いはないだろう――から、諦めるという事を知らない。
気持ちだけ押し付けて、押し付けられた一護が潰れてしまうようなことになってしまわないか、不安が頭を掠める。
「・・・夜一サンはアタシの味方じゃないんですか?」
鋭さの増した目が夜一を射る。全く性質が悪すぎる。これでは一護が可哀想だ。
「敵でも味方でもない。だが、強いて言えば一護の味方じゃ」
「夜一サンらしい無難な回答ですね」と浦原。
感情の篭もってない声は、冷たさだけが増す。
「一護がいない今日は良い機会じゃ。一度頭を冷やせ」
呆れ半分で諭す夜一にも浦原は、主のいない机に向って溜息をこぼすだけだった。
夜一の言い分も分かる。
たまに一人になりたい時もあるだろう。
けれど、浦原が思いを馳せるのはたった一人。
責任を押し付ける気はないが、浦原は一護の傍にいたいが為だけに死神になったのだ。
その一護がいないのなら、ここにいる意味さえも無くなってしまう。



(20101027)

作品名:紅の識者 作家名:シイナ