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朝雲暮雨 after story

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  『 朝雲暮雨 after story 』


「やったね、ゆまっち!これでアニメイトととらのあなの特典ゲットよ!」
「これで今日は安心して眠れますよ!もし買えてなかったら……考えただけで恐ろしいっす」

狩沢の言葉に遊馬崎は両手を肩に置き震えるそぶりで「もし」の恐怖に怯えるように答える。
無事、とらのあなでの電撃文庫などの購入を終えた二人はすぐそばに停めてあるワゴンの後部座席に乗り込む。普通のワゴンとは違い、そこは椅子などを一切取り払った広い空間になっている。今は、床にたくさんの本が散乱していて決して広いとは表現し難い空間なのだが。

「どうだ?欲しいもんはあったか?」
「さっすがとらのあなだよ!やっぱあの特典もらう瞬間が一番テンション上がるかな!?いや、でも、本に囲まれただけで十分いけるね!ねぇ、ドタチンは本と本棚どっちが攻めでどっちが受けだと思う!?」

狩沢は身を後部座席から乗り出すようにして助手席に座る門田の方へ向く。
門田は僅かに眉を顰め、軽く溜め息をつきながら返答する。

「……俺に聞くな。遊馬崎に聞け」
「ちょっと、門田さん!何でも俺に回すのはよくないと思うっす!俺は百合とNLはどんとこいっすけど、BLはちょっと……な人間なんっすよ」
「……この言語は日本語なのか?」

ワゴンを運転しながらぼそっと独り言を言う渡草。門田は呆れたように後ろでいつもの様にもめだした二人を見てまた小さくため息をついた。二人の白熱した口論は留まるところを知らない。


車を発車させてから十数分経ったが二人の会話は未だ続いている。
門田は車から流れ出る渡草の溺愛する聖辺ルリの曲と車の後部座席で生まれ流れ出る会話の音をBGMに本を読み続けていると、見慣れた景色が窓の外に流れ始めた。
ふと右を見ると渡草も毎日のように運転しているから当然だろう、門田の方を見て無音の言葉を伝える。
渡草の意思を受け取った門田は楽しそうに喋り続ける二人の空気を壊すようで少し罪悪感があったが、これは仕方の無いことで、と自分を納得させ後部座席の方に上半身を向けその会話に三人目となる声を投入する。

「狩沢、そろそろお前の家着くぞ。準備しろよ」
「・・・・・・えぇー。なんでぇ――・・・・・・」
「なんでじゃねぇよ。準備しろ」

狩沢は不服そうに身体を捩じらせて嫌がっている様子を全面に表に出す。
遊馬崎は宥めるように狩沢の肩を軽く抱くようにしてポンポンと叩く。

そんなやり取りから十分も経たないうちに狩沢の住むマンションの前に一台のワゴンが静かに止まる。
助手席からドアを開いて降りた門田はすぐ横にあるドアをスライドさせる。
中に見えるのはニヤニヤした顔と少しふてくされた様子の二人。

「門田さんジェントルマンっすねー」

遊馬崎はなおもニヤニヤした顔で門田の方を見る。あぁ、二次元の中だけだと思っていた愛の表現方法が今、ここに現実に!と大きな身振りで一人テンションの上がっていく遊馬崎とは対照的に狩沢は軽く唇を尖らして今座っている場所から動こうとしない。

「狩沢、降りろ」
「・・・・・・はぁ~い・・・・・・・・・」

しぶしぶといった様子で自分の荷物を持ちワゴンから降りる狩沢。ワゴンの外からの中に居る渡草と遊馬崎にじゃあね、と一言掛けて同じく外に居る門田にばいばい、ドタチンと軽く手を振りながら無理して作ったような笑顔を向けてワゴンからゆっくり離れていく。
僅かに心に痛みを伴いながらも、聞こえるように返事をし狩沢が出て行ったドアを閉めようとする。
が、ドアのすぐそばに遊馬崎の顔があって閉めようとした手を止める。

「いいんすか、門田さん」

見上げながら読めない表情の遊馬崎が門田に問う。

「狩沢さん行っちゃいますよ」
「しょうがねぇだろ。ここが狩沢の家なんだからよ」
「今日は一段と離れたくない日かもしれないっすよ?」

遊馬崎は意味深な言葉を並べながら再度門田に問いかける。
門田は首を動かして後ろでマンションの入り口に入っていこうとする狩沢を見る。
そして先程の彼女の表情を思い出す。
無理に作り出したような笑顔。本当は別れたくないに決まっている。
門田は一瞬戸惑ったが、本心からか気がつけば声を発していた。

「狩沢!!」

名前を呼ばれた本人は驚いて肩をピクっと上下させ、後ろを振り向きワゴンの方を見た。
助手席に座る渡草、後部座席から覗くようにこちらを見る遊馬崎、そしてワゴンから二、三歩ほど離れた場所で自分の名前を呼んでくれた最愛の思い人である門田の顔が見えた。

「一泊分の荷物、持って来い!」

僅かに顔を赤く染めながら、それでも狩沢に聞こえるように大きめの声で言葉を届ける門田。
刹那、あれほど暗い顔をしていた狩沢の表情がまるでいつもより眩しく輝く太陽のような表情に一変し、笑顔を浮かべながら大きな声でうん、と元気よく返事をすると駆けるようにマンションのエントランスに姿を消す。
閉めようとしていたドアを開けたままにして、助手席に戻り椅子に座る。
すると先程の狩沢のように後部座席から身を乗り出し門田の方を見る遊馬崎。

「やりますねー門田さん」
「うるせぇ」

ドアを閉めるとドアの出っ張っているところに肘をつき顎を乗せる。
そんな様子の門田を遊馬崎が小さく声を上げて笑い、運転席でずっと様子を窺っていた渡草もぷ、と息を漏らすと小さく肩を震わせて笑う。それにつられて遊馬崎もまた先程より大きめの声で笑い出す。
笑う二人に比例するように顔を赤くし、帽子を目深にに被りなおす。

「で、どうすんだ。門田」

落ち着いた様子の渡草が門田の方を見ながらふと問いかける。

「何がだ?」
「何がって、狩沢をだよ?」
「狩沢を?」
「あぁー、門田さんって天然なのか、そうじゃないのか!?それとも計算っすか!?いや、でも門田さんに限ってそれは無いと思うんすよ!今、俺と渡草さんが頭に思い浮かべていることは言葉を交えなくても分かるっす。絶対同じなんすけどねぇ。門田さんは・・・・・・」

遊馬崎は運転席と助手席の間の椅子をバンバンと叩きながら一人悶える。
渡草は車壊すなよ、と注意しながら再び軽くどぎまぎした様子で門田に問う。

「いや普通に、狩沢を誘ったのかなー・・・と思ってさ」
「誘ったじゃねぇか」
「そうじゃないんっすよ、門田さん!」

渡草は少し困ったように微妙な顔を浮かべ聞いていいのか戸惑ったが、遊馬崎の渡草を見る目が完全に先を促しているような目にしか見えなかったので、意を決して口にしてみた。

「だからさ、狩沢を抱くのかなー・・・と」
「はぁっ・・・・・・ッ!?」
「やっぱり同じっすね――!」

門田はボンという音が聞こえるかのように顔を真っ赤に染め、遊馬崎はそれを見てもう耐えられないといった風に後部座席に転がり床を先程よりも強く、そして早く音を立てて声を上げながら叩きまくる。
渡草は意外そうに目を少し大きく開き、門田の純粋さに対し改めて感心する。

「お前ら・・・!」
「門田さん」

落ち着いたのか無理矢理落ち着かせたのか目に涙を浮かべながら、それでもやはり上がった体温が下がりきらないのか、深呼吸しながら再度門田の話しかける遊馬崎。
作品名:朝雲暮雨 after story 作家名:大奈 朱鳥