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むむむむ、と帝人は自分の髪を見つめて小さく唸っていた。
いい加減、痛んでいる。枝毛だらけだ。
真っ黒で一見硬そうに見えるが、帝人の髪は意外なほど柔らかい。今はヘソの辺りまで伸びていて、ハッキリいって手入れは大変だ。
帝人自身について言えば、髪の毛にそれほど執着はない。べつに切ってしまっても良いんじゃないかとも思っている。最近はウイッグなども簡単に手に入るようになったし、いっそバッサリいったほうが面白い、とも。
しかし帝人の家族が反対するのだ。
大好きな義父と義母。戸籍上は結婚できない闇医者と妖精のカップルが、これ以上ないほど帝人を可愛がり、大切に育ててくれた。しかし過保護でもあった。
どれくらい過保護かというと、一人で池袋の街に出るのを最初に反対され、一人で出かけれたと思ったら後から付いてきていて、後に付いてきていないと思ったら携帯のGPS機能を使って帝人の現在地を逐一チェックしていた。心配だから出かけるときは盗聴器を付けておきたいと言われたときは、さすがに帝人も嫌がった。ストーカーじゃあるまいし、ちゃんと家に帰ってくるのだから良いじゃないかと。
主にそういう提案は父親の新羅から齎されることが多いが、母親のセルティも妖精であるので人間以上の常識を弁えていながらもドコカがぶっ飛んでいる。
まぁでも、帝人は幸せだ。
とにかくその二人が、帝人の髪を切ることを反対しているのだ。
基本的に長い髪は邪魔なので、自宅では一つにまとめて後頭部でお団子にしているか、三つ編みにして背中に流しているかのどちらかだ。
すべて垂らしておくと、冬は温かいが夏は暑い。少し俯いただけで落ちてくるし、首に纏わりつくと鬱陶しいこともある。
乾かすのも面倒だし、髪を洗うのも一苦労だ。現在、帝人は地肌を洗うシャンプーと、髪の毛を洗うシャンプーの二種類を使っている。どこで知ったのか知らないが、新羅がインターネットの通販で買ってきたものだ。それからリンス、ドライヤーの前には洗い流さないトリートメント。
とりあえずリンスまでは自分でやるが、トリートメント&ドライヤーはセルティがしてくれている。風呂上りに濡れ髪のままグッタリしている帝人を見かねたのが最初だったのだが、今ではそれも楽しんでいるようだ。
そんなわけで、帝人は髪が切れない。でも痛んでいるので毛先くらいは切りたい。チマチマと一人、枝毛を探し出してハサミで切る作業にも飽きた。
どこか池袋で良い美容室はないだろうか。
リビングにあるパソコンで検索してみたが、件数が多すぎる。
髪を切ろうとは思ったが、美容院を探すのが面倒すぎる。街に出て適当な店に入ってもいいのだが、帝人の性格的に何の紹介も予約もなしに店の入るのは躊躇われる。
小さい頃、両親が生きていた頃は、手先が器用な母親が切ってくれていた。今も前髪くらいなら、なんとか自分で切ることが出来るのだが、後ろ髪になるとどうしようもない。
パソコンの前で再び帝人が唸っていると、横からにゅっと手が出てきた。
『どうしたんだ?』
「あ、セルティさん」
PDAに打たれた文字を読んでから帝人は顔を上げる。
「ちょっと髪を切ろうかと思って、美容室を探していたんですけど、」
『な、なんだと?!帝人の綺麗な髪を切るなんて私は許さないぞ!』
「…いえ、あの、痛んできたので毛先を揃えようかと」
『そ、そうか』
あきらかにホッとしているセルティに、相変わらずだなと帝人は思う。
「でも池袋って美容室が多いんですね。ネットで検索しても結構引っかかって、なんだか探すのが面倒になっちゃいました」
『私は首がないから髪を切る必要もないしな。そもそも頭部があっても妖精の私の髪が伸びるのかは謎だが。新羅がいれば適当な美容室でも知っていそうなものなんだがな』
「さっき急患で呼び出されていましたもんね」
予定では今日新羅に仕事は入っていなかったのだが、そこは売れっ子の出張闇医者だけあって、突如携帯が鳴り、呼び出されて行ってしまった。セルティも今日はオフだったので、久しぶりに家族三人家でダラダラしていたところだった。
帝人は15歳になっていたのだが、中学校には通っていない。もっぱら通信教育と新羅による家庭教師と自己学習で補っている。
10歳のときに両親が殺され、それを企てた主犯の組織や実行犯は粟楠会が排除してくれたのだが、しばらく心配だから家から出ないようにしていたのだ。
もともと引き篭もり気質のある帝人にとって、それは大して苦にはならず、新しく出来た家族と毎日楽しく過ごしていた。
中学生に上がる年齢のときに、一度学校に行ってみるかと尋ねられたのだが、新羅が「帝人くんは学習面から見ても中学校で学ぶ事はそうないだろうねぇ」と言われたので、じゃあまぁいいかなぁ、と思っているうちに行っていないまま時間が過ぎていっていた。
勉学以外にも友達関係や社会性を身に付けるなど、学校で学ぶことがあるのがわかっていたが、帝人にはそれよりも優先したいものがあった。
意外と留守がちな新羅とセルティに、家で待っていた帝人が「おかえりなさい」と出迎えると、とても嬉しそうにするのだ。だったら家にいるのも良いかなぁ、とちょっと価値観のズレた帝人は思っていた。
高校についてもソロソロ考えなければならないのは分かっていたが、もうちょっと後のことだから、と帝人は先延ばしにしていた。
それに自分の格好のこともあるし…、と帝人は思う。
帝人の性別は男の子だが、基本的に服装の性差には拘らない。
小さいときに病弱だったので物心ついた頃には女の子の格好をしていた。それから自分が男の子だとちゃんと自覚しても、別に女の子の服を着るのに抵抗はなかった。両親がどんな服を着ても褒めてくれたのもある。特殊な職業をしている親なので、危険性を考えて帝人を小学校に行かせていなかったのもある。同級生の男の子からオカマだとか罵られていたら、帝人の価値観も変わっていたのかもしれない。昔は帝人も気弱な子どもだったから。
それから両親が死に、闇医者と妖精が義父母となった今では、男の子が女の子の服を着ていたところで大した問題ではないと帝人は思っている。
だいぶ話が反れたが、それで髪の毛のコトだ。考えるのが面倒になった帝人は、気分転換にセルティに提案した。
「新羅さんもいないし、二人で部屋にいるのも良いですけど、久しぶりにショッピングにでも行きませんか?」
『でも、私が入れる店はほとんどないぞ?』
「ウィンドーショッピンブでも充分楽しいですよ!とにかく僕はセルティさんと出かけたいです」
『なんて可愛いことを言うんだ帝人は!』
ぎゅう、とデルティは帝人を抱き締める。
『よし、では途中までシューターで行こう』
「じゃあ、僕ちょっと着替えてきますね」
部屋着のラフな格好だった帝人は、自分の部屋に戻るとクローゼットを開いた。
帝人の部屋にはクローゼットが二つある。一つにはジーンズやロゴの格好良いトップスやシルバーアクセサリー、幅広のゴツ目のベルトなどが入っている。もう一つにはスカートやワンピース、ショートパンツにチュニック、レギンスやニーソックスがある。華奢なネックレスやブレスレットは専用のケースに仕舞われている。
作品名:アンサンブルカット 作家名:はつき