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深淵

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「三日だ」
 と、テーブルのむこうの男が断言。
 これだから、年寄りと食事はしたくないのだと男は思う。
 
 ただでさえ、この種の上役にあたる男に、やたらと食事に誘われるのだ。
 会話の内容は、無意味な『忠告』だとか、益のない『指導』だとかで、時間の無駄でしかない。
 しかも今回、こんな時に、と思ったが、簡単に断れる相手ではなかった。
 
 ナイフとフォークできれいにそろえた魚料理を、どうしようかと考えあぐねていた男は、「三日?」
 と、ただくり返してみた。
「そうだ。五日後には必要だ」
 決定事項をくり返して聞くなというように、相手は顎をあげてこちらを見くだす。
 
初めからそれほどなく、先ほどから失せていた食欲は、ここにきて完全に消失。
「―アザン閣下。これは、てっきり、食事に招かれただけかと」
「ほお。いつかと同じ事を口にするか?」
「――――」
 わざと、いつかと同じ事を口にしてやったのに、相手にはやはり通用しなかった。
この図太さを見習わねば、中将という階にはのぼれないのだろうかと息がもれそうになる。
「―閣下、ご存知かとは思いますが、現在我が隊も」
「当然だ。仕事は続けろ」
「・・・・」
 ナイフとフォークを、持ち続ける気力もなくなってきた。
「休暇を取れなどと、言った覚えはない」
 相手はとっくに食事を終えていて、こちらの皿と顔とを見比べるようにしてから笑った。
「いい駒を。もっているだろうが?」
 ・・・・・。
「―何を、ですか?」
「ずいぶんと、手なずけてあると聞いたが」
「何のお話か」
「それを使えばいい。忘れるな。期限は三日だ」
 メインディッシュまでの食事会が、打ち切られた。









 エルリック兄弟がそこを訪れたのは、誰かさんに呼ばれたからではなくて、出向いた先で片付けた仕事の、報告ってやつを、やりに来ていただけだった。
「兄さん・・・、『報告』っていうより『反省』だと思うよ」
 兄より立派な体格の弟が、念のため釘を刺す。
 反省?と、態度と気だけは、今でも弟に負けない大きさを持つ兄が聞き返す。
「何をだよ?」
「・・・・・。」本気で、聞いてきているのは、弟だからわかる。
だが、しかし・・、「気付かないふりは、良くないと思う・・」ぼそりとしたそれに、兄の眼が少し泳いだ。
「いい?今回の騒動だって、本当はもっと小さい被害で済んだ事だと思うよ?あそこで、あの橋を落とすって・・・ぼくたち、どこかの過激組織じゃあないんだからさ」
「だって、あそこで絶たねえと」
「なにか、言われたんでしょ?」
 ぐっと詰まった兄を確認し、弟はため息をつきたい気分だった。
 代わりに、鎧の口元をわざと動かし、音をだす。
「―公共施設の破壊ってさ、それなりに、問題、だよね?」
「う」
「この手の後処理には、ぼくたち、いっつも大佐の名前使ってるし、大佐も、その度に手配して、ぼくたちがすぐそこを出られるようにしてくれてるけどさ・・・」
「だって、アレが後見人なんだから当然だろ?それに、ここで書類出せっていわれてるの、ちゃんとやってるぜ?」
 ・・・兄さん、そっちが当然の事だよ、という代わりに、黙ってみせた。
「・・・あ、アル?・・だ、だからさ、おれだって、その、反省してるし、えっと、そうだ!おれたちだって、けっこう役に立ってるだろ?この前だって手配犯を(偶然だけど)捕まえてやったし、前来たときは、倉庫の片付けも(主にアルが)手伝ったし、あと、えっと・・なんつーか・・・」
 反応をみせない弟に、兄はちょっとだけ、困ったような諦めたような眉を下げた顔でこう伝えた。
「―悪かったって。わかってるよ。おれだって。今回は、さすがに、その、ちょっとやりすぎた気も(今になって)するし・・」
 うかがった弟はまだ動かない。兄はちょっとあせった。
「だ、だから、中尉と電話で話したときに、まっさきに、『あなたたちはだいじょうぶ?』って聞かれて、なんか、・・恥ずかしくなったっていうか、―ここの人たちの顔が、一斉に浮かんで、なんか・・・・―おまえが、いつもおれの代わりに、こことのかかわりを気にしてくれてるのにも、甘えてたのかも・・な・・。これでも一応、おれなりに、みんなに感謝はしてんだぜ?」「みんな?それは、わたしも含めてかね?」「そう、こういう腹黒そうな声の―・・」
                ぽん。
           
 と、左の肩へ、大人の手がのせられた。
「そうか。きみが、そんな感謝の気持ちを、わたしに表したいと思っていたとはね。よかろう。ぞんぶんに、あらわしたまえ」
 振り返ったそこに、腹黒い笑顔があった。





  ―そして、花束をもらう。

「・・・・・・」 
 差し出した男の口もとが明らかに笑おうとしていて、つきかえそうとしたら、「君が渡してくれたほうがいい」と言う。
「渡す?」
「そうだ。これから会う女性にね。―まさか君はー」このわたしが君に花束を贈ったとでも思ったのかね?とおかしそうに横を過ぎた背に、匂やかなそれを叩きつけたいのをぐっとこらえた。
 待ち合わせしたのが街中だったのは、この花を買うためだったのか、と少年は納得。先をゆく男の背をみながら、それをそっと抱えなおした。
 なんだろう?男が何か、いつもと違う気がする。

 目指した先の車には、煙草をくわえて暇そうに待っている男が見えた。近付く気配に気付き、口のものを慌てて消し、片手で車内の煙を払う。
 遅れて乗り込んだ少年へ、「よ、大将」といつもの挨拶。
「なんだよ。公私混同なんじゃねえの?」
車も運転手も勤務先のものを使うだなんて。
横を見て言ってやったのに、返してきたのは運転席の男だった。
「お仕事中」
「はあ?女に花束渡すのがあ?」
ごほん、とわざとらしい咳が横からさえぎる。
「―早く出せ」
 ひどく低温な声。
イエッサーと発音した男は子どもへ一瞬目をはしらせて、警告してやった。

 この通り、ひどく、不機嫌でいらっしゃる・・・

 聞き返したいのをぐっとこらえ、少年は窓の外を眺めることにした。エンジン音と花の香りだけが車内を漂う。ちらり、と視界にいれた男は表情もなく、ただ前をみていた。
「・・・かかわりたくねぇなあ・・・」
 心の声が、こぼした息に小さくのった。
「ほお?わたしにいっつも世話になっているから、ぜひとも役に立ちたいと申し出たのは、君からだったはずだが?」
「どこをどうすれば、そんな変換がなされるんだよ?」まあ、ほんのちょっと言葉は合っているけれど・・。
 ミラーの中のタレ眼が、『あきらめろ』と語ってきた。
ふっ、と不機嫌なはずの男が笑いをもらす。
「美しい女性と会って花を渡すんだ。そんな顔をすることはないだろう?」
 『美しい』?いぶかしむような少年に、男は微笑をみせた。
「そう。可憐で美しいと評判の、若い女性だ」
 機嫌が少し戻ったのか、口元は笑っている。が、絶対に彼の意見ではないとわかる表現の仕方だった。
「その女の人、有名?」「あ〜大佐?よろしければ」「お前はいい」
あっさりと希望を却下された男が不満をもらした。
「なんで大将なんすか?子どもと動物を使うなんて手は―」
作品名:深淵 作家名:シチ