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深淵

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「会うのは、アザン閣下のご息女だ」
「自分は、ここで、待機します」
 口調まで変えた男の急な転換に、なんだそりゃ、と子どもが眉をよせた。
「なに?その女の人って、すごく怖い、とか?」
 脳裏を身近な女性がよぎる。
「いんや。さっき大佐が口にした通りの人だって話だな。美人で、内気で、おとなしい」
 待機希望の男は少年の抱える花の香りを意識して、説明しだした。
「おれも一度だけ、祭典で見かけたけど、まあ、噂通りの美人。だけど、その父親は、アザン閣下な、わけだ」
「アザン閣下?知らねえなあ」
 首をかしげるその様子に、この少年もいつのまにか、しっかり立派に身内だな、とタレ目の男は口元を緩める。
「じゃあ、『葉巻の閣下』は?」
「あ、それなら聞いたことある。どこでだっけ?中央か。すっげー頭が固くて細かくて、なんにでもすぐ口出ししてくる中将がいるって」
「そう、その中将のお嬢さんってわけだ」
 ああ、と少年は花を見下ろした。
「その人じゃなくって、ハボック少尉は、その父親が、怖いってわけか・・・って、そのおっさん、今日いるわけ?」
「いないだろう」横から切って捨てるような口調。
 またしても機嫌が下がったような男に、子どもは意地の悪い眼をむけた。
「ふうん。つまり、あんたはそのおっさんと仲が悪い。でも、そこの美人な娘とは仲良くなりたい。で、何だよ?まさかおれを使って、その人を口説こう、とか?」
 にやり、と、してやったり顔の子どもは、運転席の男が焦ったように振り返ったのに気付かなかった。
「どこが仕事なんだよ?」
「たいしょ、たーいしょ」
 こそこそした声で前の男がちらちらと振り返る。
「あん?なんだよ?前向いてないとあぶな」
「ざんねんながら」
 一語一語を切るような発声。子どもの声をぶったぎった男は続けた。
「―わたしの、好みでは、―なくてね」
・・・それはそれは、冷えた笑顔をのせて発せられた言葉に、こどもが「えっ」と素直な反応。
「あんた、女だったらどんな人でもいいんじゃねえの?」
           ・・・・・こどもって・・・
「・・怖いもん、ねえなあ」思わず感心した男がもらし、ミラーの中で冷たい黒い瞳と合ってしまい、おとなしく運転に集中することにした。



 年貢の納め時を、見送った。
 大方の見方は、そう、一致していた。ただ、部下としてこの男をみてきた人間達はちょっと違う意見だったけれど・・。
     中将の娘と結婚?この男が?それじゃあ、ただの縁故じゃん。
 そんな昇り方をする男ではないのを知っていた『身内』は流れた縁組を、ごくまっとうなものとして受け取った。が、周りはけっこう大騒ぎだったのだ。
 なにしろ、当の中将殿が、浮いた噂の絶えない男を、自分の娘の婿にすると公言してしまってからの『お断り』だった。
 一時は降格か、とさえ噂もたった。
 さすがにそこまでの職権乱用は実現されず、当人の「当然だ」という感想とは別に、胸をなでおろしたのは一年以上前のこと。

 その、娘に会いにゆくというのは、ハボックも今知ったところで、指定された、街からはずいぶんと離れたそこが、かの中将の持ち物だというのも、初めて知った。

後ろの男は、また固い雰囲気のままで窓の外を眺め続け、子どもは抱えた花を観察することで時間を潰している。
 子どもなりに、男の機嫌を察知してのそれに、なんだかわからないが、口が勝手に動いた。
「大佐、花を渡したら、大将とおれは戻っていいんすか?」
「・・・先方は、彼も客人として扱う。戻りたければおまえは戻っていいぞ」
 むっつりとしたこたえ方だ。この人も、時々ひどくこどもっぽい。
「それは、大将も仕事ってことで?」
 ミラーの中で、男が横へ視線をながすのがわかった。珍しい。この男が即、令を下さない。男と見合っているはずの子どもも、何もしゃべらない。
「・・・正直に言うと、君がやらなくともいい仕事だ。ただ、・・今回は時間が限られているうえに、人手が足りない」
「こっち、今、大変なんだろ?」子どもが身体を起こし、ようやくしゃべった。
 
 先月から、あちこちで爆破事件がおきている。
 無差別なそれは、時限式のものを街中や店に置いてゆくというものと、爆弾をつけた人間がいきなりそれを着火させ、自殺するという二通りで、やっかいなのは、声明や要求がない、というものだった。
「声をあげてくれれば、こちらとしてもとっかかりができるのだがね。なにもない。自爆した犯人達にも、いまのところつながりがみえない。職業、年齢、性別、全て異なる。近所や知り合いの評判はみな上々。そんな人間が、ある日突然、広場や客でごった返す市場で、どかん、だ」
 事件の後処理を思い出し、ハボックはつかえそうな唾を飲み込んだ。
「だから、大将はおれと戻ってこっちに参加してもらったほうが、いいんじゃないですかね?ほら、いつものごとく、何か、とっかかり作ってくれるかもしれないですし、なにかと勘がいいですし」
「その勘を、―こちらのほうでも、ぜひ、つかってほしくてね」
「こちら?って、その、女の人に?」
「ただしくは・・・・まあ、いい。ハボック少尉、君は今から少し耳を閉じていたまえ」
「いえっさ」
 軽い返事に一瞬眉をしかめるも、男は説明を始めた。
「―アザン閣下の家に伝わる、大事な大事な家宝が消えたそうだ。それが、五日後に必要だから、三日で探せと、個人的に言い渡された。命じられたのが昨日だから、今日をいれてあと二日だ。もちろん通常の職務を怠ることは許されないし、どう考えても、口外厳禁な事実だ。なぜ五日後に必要かというと、とあるお国のお姫様が、五日後にその家宝を必要とするからだ。閣下はそのお国に、我が家の家宝をぜひ使ってほしいと申し入れ、それが採用されたわけだ。」は、っと男があざわらうように一息いれた。
「―なくなったのはアザン家に伝わる首飾り。貴石から半貴石まで、つかわれた石が全て青い石で統一されている『深淵』と名づけられた家宝。ごてごてとしたその首飾りをつけて、五日後にお姫様は結婚式を挙げる予定。以上、何か質問は?」
「・・・いや、ありすぎちゃって・・・だってそれ、あんたが言い渡されたんだろ?」
 子どもが、ものすごく不快そうな顔をしている。
「上官に食事にむりやり誘われて、味もわからないような料理を食べながらだがな」
「だから、探すのはあんただろ?」
「あいにくと、わたしはそういう仕事が苦手でね」
「書類だって時々行方不明にさせますからね」
 運転手のつぶやきにひと睨みする男へ、子どもは続ける。
「―まさか・・同じ石探しつながりで、とか・・考えたんじゃあ、ねえよなあ?」
「は、そこまで・・・・そうか、うん、そういうことにしよう」
 腕を組んだ男はさわやかに微笑んだ。
「こっちの石が先だ。鋼の。これは上官命令だ。君は、『深淵』を先に探し当てなければならない」
「じょ!じょおだん!ざけんじゃ―」
「アルフォンス君にもそう伝えたまえ。わたしの役に立ってくれて嬉しいよ。たとえまた、よそで、どでかい公共物破損行為をしていたとしてもね」
「うっ・・・・・・・」
作品名:深淵 作家名:シチ