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Midnight War

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ギィィと小さな音をたてて扉が開いた。
暗い影が部屋の中へ入ってくる。
そして、扉が閉まり鍵も閉められた。
―――深夜の戦いの火蓋が切って落とされる




   Midnight War




スースーと気持ちよさそうに寝ている少女、ルナ。
彼女自身の部屋のであるせいか随分と身軽な格好をしている。
彼女の元へそっと足を忍ばせる少年。
暗闇の中でも目立つオレンジの髪の少年の名はラビ。
音を立てないように足早にベットへ近づき手を掛けようとした――刹那

バシィィッ

「こんな夜中に何やってんだ!?バカ兎!」

怪しげな気配に目を覚ましたルナは瞬時に体を起こしラビの顔に平手打ちを決めた。

「何ってー、この時間にやる事は一つしかないさ?よ・ば・い」


まるで語尾にハートマークをつけたような言い方にルナも肩を竦める。
ラビは打たれた頬を手で擦りながら此方に身を乗り出してきた。


「・・・帰れ。クソ兎」

「ルナって女なのにほんと言い方ユウそっくり」

「明日は任務なんだ。疲れる」

「でも、ユウと違うのはやっぱり女って事さ♪」


すくっと立ち上がり帰るだろうと思った瞬間、ベットに押し倒してきた。
そのまま顔を近づけて触れるだけのキス。
やがてそれは舌を使った甘い溶けるようなキスに。
ラビはこれをするとルナの体から力が抜ける事をしっている。

(経験の差さ♪にしても・・・)

ラビは頭を上げ、ルナの顔を見つめた。
彼女は頬を赤らめて苦しそうな息遣いをしていた。
涙に滲んだ瞳で睨んでくる様子は煽っているようにしか見えず・・・


「なぁー誘ってんの?」

「なっ、なわけないだろ!?消えろ!」


渾身の力を振り絞って彼の鳩尾を殴ろうとするが、両手首を押さえつけられてるので身動きが取れない。
それに気付いたように締め付ける手の力を強くする。


「・・・っ」

「ふっ、諦めろさ。ルナ」


このまま俺に身を任せるんさ、と耳元で囁く。
さらに顔を赤めたルナは全身全霊の力を込めて右手に力を込め―――


「イノセンス発動! ソーニョリング!!」


目映い光と共に右手に嵌められている指輪から実体のない何かが解き放たれてゆく。
そして、主を守ると言っているように彼女の体へ巻き付き、彼女の体を浮かせる。


「ちょっ・・イノセンスは反則さー!?」

「部屋を出ないお前が悪い。ソグ」


発動した光に向かって語りかける。


「なんでしょう、プリンチベッサ?」

「俺の部屋に居るゴミを今からゴミ箱へ捨てに行く。手伝って」

「了解しました。プリンチベッサ」


返事をするや否や彼女のイノセンスはそっと彼女の体を床へ下ろし姿を実体化させた。


「う゛・・・相変わらずさー、ソグ」

「アナタも相変わらずですね。ラビ」


そう告げた瞬間、再び実体のないまるで煙のような姿になりラビを掴んだ。
そしてそのまま持ち上げて扉の方へと持っていく。


「プリンチベッサ。コートを着てくださいね?」

「分かったわ」


ルナは身を翻すとクローゼットに閉まってあったコートは羽織り、扉を開けた。
どうやら向かう先はコムイのいる司令室らしい。
この時間帯でも起きているのは科学班やコムイぐらいだろうと判断したためだ。

ルナのイノセンス――ソグに体を掴まれたまま隣を歩く彼女の方を向く。
颯爽とした歩き方はまるで神田の様。


「ルナってさ、俺より神田の事好き?」

「・・は?」


彼女にしては珍しく素っ頓狂な声を上げた。


「いや、なんとなく思っただけさ」

「確信もない事を口にするな」

「プリンチベッサは他にちゃんと好きな方がいらっしゃいますよ」


今の形態の彼女のイノセンスには表情は無いが、きっと微笑んでいただろう。
イノセンスの持ち主は顔を赤くして、自分のイノセンスに怒鳴った。


「ソグ!?お前っ何いっ・・言ってんだ!!?」

「大丈夫よ。プリンチベッサ。想いは通じ合ってるじゃないですか」

「え!?いんの!?誰さ、誰さ!!?やっぱり俺だよねー!」


いつもルナの周りに集まる男共を牽制するようにルナを抱きしめたり、たくさんの人が居る場所であえてキスしたり。
ラビにその気はあるが、ルナは先程のようにキスをされてもベッドに押し倒されても、これが恋人同士のすることなんて知らないからいつも戸惑うばかり。
そんなルナにラビはまたちょっかいをかけたくなるのだ。


「ラビ黙れ!このクソ兎の体を締め付けろ!ソグ!!」

「了解しました。プリンチベッサ」


イノセンスは持ち主の言葉に従順に従う。
ぐええと声を出しながら表情を歪めるラビ。
そのまま彼は右手を伸ばし右足のホルダーにセットしてある槌に触れ一気に引き上げた。


「イノセンス発動!!」

「!」


隙ありと言ったような表情で見下ろし、イノセンスの槌を身の丈以上に伸ばして彼女との距離を測った。
ルナは顔を若干引きつらせながら右手の指輪から放たれている自分のイノセンスを睨む。
形態を変化させ、ごめんなさいねと微笑むソグ。
彼女の中で何かが切れたような感覚が沸き上がった。


「ソグー!ありがとうさー!」


手を振りながら叫ぶ彼に怒りの矛先が向けられる。
敏感に彼女の気持ちは感じ取ったソグは攻撃態勢に入る。
彼の表情が困惑へと成り変わる瞬間――

ドンッッ  ボゴォッ

激しい破壊音が教団中に響き渡った。


「ラビ・・・もう手加減しないわ・・かかってこい!」

「ちょ、修行なら明日見てやるさ!」


キィンキィンと金属と金属をぶつけ合うような音。
華奢な体からは想像も出来ないような身の熟しで彼に攻撃し続ける。


「修行・・?無礼な事言ってんじゃないわよ・・」

「め・・めっちゃ怒ってるさ・・?」


お互いのイノセンスを最大限に駆使しながら攻撃を続ける二人。
ラビは槌を大きくしたり小さくしたり、伸ばしたり縮めたり。
額には汗をかき、光によって輝いている。

間合いを取ろうとすればすかさず彼女が飛び込み盛大な蹴りを入れる。
それを当たるか当たらないかの既の所で躱し、互いに相見える。
見る人が見れば美しい手合わせに見えるだろう。
しかし・・・


「死ね!クソ兎!!」

「死にません!無理です!!」


片方から片方への罵声が飛び交っていた。

こんな夜中にこれだけうるさい騒動を起こせば目覚める者も多く、次々と人が集まってきた。
中にはよく見る顔もあり、ひどく眠そうな表情をしていた。


「二人とも・・何やってるんですか?」


白髪の少年、アレン・ウォーカーは目を擦りながらこちらにやってきた。
が、すかさず彼に向かって攻撃の火花が散りすぐに目を覚ました様であった。


「コラっ!何してるの!?」


鈴の転がるような音の声を張り上げ、腰に手を当て二人を叱るのはリナリー・リー。


「俺は止めたいんさ!なのに、ルナが・・・」

「問答無用!ぶっ殺す!」


戦いは激しさを増すばかり。
困ったように顔を見合わせるアレンとリナリー。
その時、救世主が現れた。


「こんな夜中に何暴れてるの?二人とも」


素っ頓狂な声を出してこちらに歩いてくる長身の男、コムイ。
作品名:Midnight War 作家名:大奈 朱鳥