大空たちの休息
《大空たちの休息》
ある天気のいい午後のことだ。
ボンゴレファミリー最強を誇る独立暗殺部隊ヴァリアーのアジトである。内部をぐるりと一周する主廊下をルッスーリアは歩いていた。回廊にとりつけられた瀟洒なガラス窓からは麗らかな光がさしこみ、いかな暗殺部隊のメンバーであっても陽気な天気につられて気分は上昇する。ルンルンと足取りも軽く、彼(彼女?)は歩を進める。
目指すはヴァリアーアジトの最奥―――ザンザスの私室である。
「ボス、ちょっといいかしら?」
目的の部屋の前に到着、軽いノックをしたルッスーリアは扉をそっとあける。そして、室内をのぞき込むと、
「あら~まぁ!」
静かに奇声をあげた。さらに彼は「目の保養。目の保養」と呟きながら、クネクネと奇怪なダンスを踊っている。扉をはさんで頭だけをザンザスの私室に突っ込み、首から下は廊下で形容しがたい不思議な踊り。とてつもなく異様な光景だ。
そんな光景をたまたま目撃してしまった、通りすがりのベルフェゴールとマーモンは、盛大にうんざりし、呆れ、気味悪がりながらも、好奇心に負けしぶしぶ声をかける。
「カマ、何してんだよ。すげーキモイ。
王子トリハダ立っちゃったよ」
「うん。ルッスーリア、キミものすごく挙動不審だよ」
「きーー!ベルにマーモン!相変わらずかわいくないわね!
まぁいいわ。ちょっといらっしゃいよ」
こいこいと手招きする(その仕草がまたとてつもなく薄気味悪くて近づきたくもなかったが)ルッスーリアに促され、「一体何事か?」とザンザスの私室をのぞき込んだベルとマーモンは、
「・・・ベル、アジトに一眼レフってあったかい?」
「さぁ、デジカメならあったけど」
その言葉を聞くなりマーモンは戒めの鎖を解除し、アルコバレーノの力を解放すると、即座に行動を開始した。ファンタズマ・ヘビverを頭の上にのっけて飛行モードでバビューンと廊下を突き進む。
『時は金なり』『無償の愛より非情の金』など数々の格言を持つ、この守銭奴な赤ん坊の目を見張る行動力(金がからむ時に限るが)に、出遅れたベルはあわてて後を追いかける。
「あ、ズリー!王子が先だ!」
「ふん、いくらベルでも譲らないよ。
何たって特ダネは金になるからね」
「ちっ、この!この!」
空中を高速で飛翔しているマーモンに、ベルがナイフを投げつける。
「ふん、甘いよ」
そう呟くとマーモンは幻術でいくつも分身をつくりあげた。廊下を大量のマーモンが飛んでいく。
対するベルは、オーダーメイドの愛用ナイフを駆使し、見事に次々とマーモン分身を削除していく。
そうして物騒なじゃれあいを繰り広げながら、バタバタと廊下を駆け抜けるお子さまたちだが。彼らが進むその先、曲がり角からぬっと大男が現れた。ベルたちと同じくヴァリアー幹部であるレヴィ・ア・タンである。
武器を手に物騒な『かっけっこ』を繰り広げる、マーモンとベルの二人に気付いたレヴィは毎度のごとく小言モードに移行。
「おい!廊下を走るなといつも言っているだろう!」
「んなこと、かまってられるかっての!」
「そう、ボスの緊急事態だよ。事は一刻を争うよ」
駆け抜けざまに、マーモンが氷弾(幻術だが知覚をいじられているので、当たればやっぱし結構痛い)をぶつけ、ベルがナイフをグサグサと突き刺していく。
「なぬ!?」
二人の強烈な攻撃をくらい、バタリと廊下にダウンしたレヴィだったが、敬愛するザンザスの緊急事態と聞きつけたレヴィは、ガバリと起きあがるとザンザスの私室へ急行する。ズザザザと急停止すると、いまだ扉から覗き込んでいるルッスーリアを強引に押しのけ、ガバリと顔をつきだした。そして室内を視認すると、
「ふぬぅ!」
ごつく、むさくるしい雄叫びとともに、石化した。
「あらまぁ、レヴィには刺激が強すぎたかしらねぇ」
硬直したレヴィをツンツンと指でつつきながら、遊ぶルッスーリア。そこに、一体どこから調達してきたのかデジカメと偏光板を抱えてマーモンとベルが帰ってきた。
「じゃまだよ、レヴィ。一体何してるんだい」
「ししし、こりゃおもしろくなりそうだぜ」
マーモンはデジカメを構えシャッターを切る(もちろんサイレントモードに設定してあるので限りなく無音だ)、ベルは助手よろしく(どういう取引がなされたのかは不明だが)偏光板をかかげて最適な採光状態を整えている。
「んまぁ、あんたたち。こういう時は仲良しさんなのねぇ」
ヴァリアークオリティーを遺憾なく発揮した見事な連携プレーにルッスーリアは呆れながらも感心。
彼らの邪魔にならぬよう、しかし室内を視認できる位置に移動する。ついでに観光地の土産物的な置物と化したレヴィもよけてやる。
こうして、ヴァリアーの幹部はそろいもそろって、ザンザスの私室前に陣取り、扉から首をつっこんでいるのだった。
その異様な光景を次に目撃したのは、誰であろうヴァリアーの作戦隊長を仰せつかる、二代目剣帝、スペルビ・スクアーロだ。
カツコツと剣士らしく規則正しい足音を響かせ、片手に書類の束を持ち現れた彼は、その異様な光景にギョッとし、一瞬及び腰になったものの、持ち前の大声を発揮する。
「う゛ぉぉぉぉい!てめぇら、一体何の騒ぎだぁ?」
「スクアーロ、しっ!」
すかさずルッスーリアの制止の声が飛ぶ。唇に指をあて『静かに!』そして『コイコイ』と手招きで促され、スクアーロも扉に頭を突っ込む。こうして、ヴァリアー幹部による即席トーテムポールが完成した。非常に不気味で薄気味わるいことこの上ない絵面だ。
そして、トーテムポールのてっぺんで室内をのぞき込んだスクアーロは、盛大に顔をしかめると頭を抱えた。
「・・・何なんだぁ、アレは?」
「さあね。でも金になることは確かだね」
「ししし、守護者どもに画像リークたらオモシロイことになりそうじゃん?」
「まぁ、ほほえましい光景よね~」
「・・・・(石化未だ解けず)」
かくして、独立暗殺部隊ヴァリアーその幹部である彼らをして、かような反応をとらせる、その部屋の中とは――――
ザンザスの私室だけあって、室内は見るからに高級感漂う造りだった。モノトーンを基調に整えられた内装、見るからに高級そうなマホガニーのオフィスデスクと革張りのチェア、奥の壁にはこれまた高級酒ばかりがおさめられたキャビネットと、分厚い本を納めた書類棚が並び、そして部屋の中央には毛足の長いラグが敷かれ、革張りのソファセットが置かれていた。
壁の一面を大きく切り取られたガラス窓からは、レースカーテン越しにやわらかな光が差しこんでいる。
そして、この部屋の主、ザンザスはというと。
ソファセットのひとつ、ロングソファをまるまる占領してご就寝あそばしていた。ソファの手置きに頭をあずけ、長い足が反対側からはみ出している。黒髪に特徴的な羽根飾り、鍛えられたたくましい体躯。褐色の肌には所々古傷が浮かび、不機嫌そうな眉間のしわ、しかめられた口元。相変わらず、眠っていてもちょっと怖いザンザスなのだった。
―――――怠惰に昼寝をむさぼる我らがボス。
いや、ここまではいつものことだ。
ある天気のいい午後のことだ。
ボンゴレファミリー最強を誇る独立暗殺部隊ヴァリアーのアジトである。内部をぐるりと一周する主廊下をルッスーリアは歩いていた。回廊にとりつけられた瀟洒なガラス窓からは麗らかな光がさしこみ、いかな暗殺部隊のメンバーであっても陽気な天気につられて気分は上昇する。ルンルンと足取りも軽く、彼(彼女?)は歩を進める。
目指すはヴァリアーアジトの最奥―――ザンザスの私室である。
「ボス、ちょっといいかしら?」
目的の部屋の前に到着、軽いノックをしたルッスーリアは扉をそっとあける。そして、室内をのぞき込むと、
「あら~まぁ!」
静かに奇声をあげた。さらに彼は「目の保養。目の保養」と呟きながら、クネクネと奇怪なダンスを踊っている。扉をはさんで頭だけをザンザスの私室に突っ込み、首から下は廊下で形容しがたい不思議な踊り。とてつもなく異様な光景だ。
そんな光景をたまたま目撃してしまった、通りすがりのベルフェゴールとマーモンは、盛大にうんざりし、呆れ、気味悪がりながらも、好奇心に負けしぶしぶ声をかける。
「カマ、何してんだよ。すげーキモイ。
王子トリハダ立っちゃったよ」
「うん。ルッスーリア、キミものすごく挙動不審だよ」
「きーー!ベルにマーモン!相変わらずかわいくないわね!
まぁいいわ。ちょっといらっしゃいよ」
こいこいと手招きする(その仕草がまたとてつもなく薄気味悪くて近づきたくもなかったが)ルッスーリアに促され、「一体何事か?」とザンザスの私室をのぞき込んだベルとマーモンは、
「・・・ベル、アジトに一眼レフってあったかい?」
「さぁ、デジカメならあったけど」
その言葉を聞くなりマーモンは戒めの鎖を解除し、アルコバレーノの力を解放すると、即座に行動を開始した。ファンタズマ・ヘビverを頭の上にのっけて飛行モードでバビューンと廊下を突き進む。
『時は金なり』『無償の愛より非情の金』など数々の格言を持つ、この守銭奴な赤ん坊の目を見張る行動力(金がからむ時に限るが)に、出遅れたベルはあわてて後を追いかける。
「あ、ズリー!王子が先だ!」
「ふん、いくらベルでも譲らないよ。
何たって特ダネは金になるからね」
「ちっ、この!この!」
空中を高速で飛翔しているマーモンに、ベルがナイフを投げつける。
「ふん、甘いよ」
そう呟くとマーモンは幻術でいくつも分身をつくりあげた。廊下を大量のマーモンが飛んでいく。
対するベルは、オーダーメイドの愛用ナイフを駆使し、見事に次々とマーモン分身を削除していく。
そうして物騒なじゃれあいを繰り広げながら、バタバタと廊下を駆け抜けるお子さまたちだが。彼らが進むその先、曲がり角からぬっと大男が現れた。ベルたちと同じくヴァリアー幹部であるレヴィ・ア・タンである。
武器を手に物騒な『かっけっこ』を繰り広げる、マーモンとベルの二人に気付いたレヴィは毎度のごとく小言モードに移行。
「おい!廊下を走るなといつも言っているだろう!」
「んなこと、かまってられるかっての!」
「そう、ボスの緊急事態だよ。事は一刻を争うよ」
駆け抜けざまに、マーモンが氷弾(幻術だが知覚をいじられているので、当たればやっぱし結構痛い)をぶつけ、ベルがナイフをグサグサと突き刺していく。
「なぬ!?」
二人の強烈な攻撃をくらい、バタリと廊下にダウンしたレヴィだったが、敬愛するザンザスの緊急事態と聞きつけたレヴィは、ガバリと起きあがるとザンザスの私室へ急行する。ズザザザと急停止すると、いまだ扉から覗き込んでいるルッスーリアを強引に押しのけ、ガバリと顔をつきだした。そして室内を視認すると、
「ふぬぅ!」
ごつく、むさくるしい雄叫びとともに、石化した。
「あらまぁ、レヴィには刺激が強すぎたかしらねぇ」
硬直したレヴィをツンツンと指でつつきながら、遊ぶルッスーリア。そこに、一体どこから調達してきたのかデジカメと偏光板を抱えてマーモンとベルが帰ってきた。
「じゃまだよ、レヴィ。一体何してるんだい」
「ししし、こりゃおもしろくなりそうだぜ」
マーモンはデジカメを構えシャッターを切る(もちろんサイレントモードに設定してあるので限りなく無音だ)、ベルは助手よろしく(どういう取引がなされたのかは不明だが)偏光板をかかげて最適な採光状態を整えている。
「んまぁ、あんたたち。こういう時は仲良しさんなのねぇ」
ヴァリアークオリティーを遺憾なく発揮した見事な連携プレーにルッスーリアは呆れながらも感心。
彼らの邪魔にならぬよう、しかし室内を視認できる位置に移動する。ついでに観光地の土産物的な置物と化したレヴィもよけてやる。
こうして、ヴァリアーの幹部はそろいもそろって、ザンザスの私室前に陣取り、扉から首をつっこんでいるのだった。
その異様な光景を次に目撃したのは、誰であろうヴァリアーの作戦隊長を仰せつかる、二代目剣帝、スペルビ・スクアーロだ。
カツコツと剣士らしく規則正しい足音を響かせ、片手に書類の束を持ち現れた彼は、その異様な光景にギョッとし、一瞬及び腰になったものの、持ち前の大声を発揮する。
「う゛ぉぉぉぉい!てめぇら、一体何の騒ぎだぁ?」
「スクアーロ、しっ!」
すかさずルッスーリアの制止の声が飛ぶ。唇に指をあて『静かに!』そして『コイコイ』と手招きで促され、スクアーロも扉に頭を突っ込む。こうして、ヴァリアー幹部による即席トーテムポールが完成した。非常に不気味で薄気味わるいことこの上ない絵面だ。
そして、トーテムポールのてっぺんで室内をのぞき込んだスクアーロは、盛大に顔をしかめると頭を抱えた。
「・・・何なんだぁ、アレは?」
「さあね。でも金になることは確かだね」
「ししし、守護者どもに画像リークたらオモシロイことになりそうじゃん?」
「まぁ、ほほえましい光景よね~」
「・・・・(石化未だ解けず)」
かくして、独立暗殺部隊ヴァリアーその幹部である彼らをして、かような反応をとらせる、その部屋の中とは――――
ザンザスの私室だけあって、室内は見るからに高級感漂う造りだった。モノトーンを基調に整えられた内装、見るからに高級そうなマホガニーのオフィスデスクと革張りのチェア、奥の壁にはこれまた高級酒ばかりがおさめられたキャビネットと、分厚い本を納めた書類棚が並び、そして部屋の中央には毛足の長いラグが敷かれ、革張りのソファセットが置かれていた。
壁の一面を大きく切り取られたガラス窓からは、レースカーテン越しにやわらかな光が差しこんでいる。
そして、この部屋の主、ザンザスはというと。
ソファセットのひとつ、ロングソファをまるまる占領してご就寝あそばしていた。ソファの手置きに頭をあずけ、長い足が反対側からはみ出している。黒髪に特徴的な羽根飾り、鍛えられたたくましい体躯。褐色の肌には所々古傷が浮かび、不機嫌そうな眉間のしわ、しかめられた口元。相変わらず、眠っていてもちょっと怖いザンザスなのだった。
―――――怠惰に昼寝をむさぼる我らがボス。
いや、ここまではいつものことだ。