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cou@ついった
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【DRRR】 emperorⅠ 【パラレル】

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「あ、新曲出てる」
「…おーう帝人さん、相変わらず渋いの聞くな、ってか年代がちょいと上なんじゃねーの?」
「だって、最近の曲はネットから取るし。こういうのはあんまりネット配信ないんだよ」
「俺はナウなヤングなバカ☆売れ☆な曲しか聴かねーから知んないぜー。やっぱり最新曲をカバー出来てこそのモテ男だろっ!!素敵、正臣くん!!」
「死語だよね」
「あ、ネットっていえばさー、俺らが子供の頃に流行った、『幻想的音楽』?ってのがまた流行って来てんだってさ。昨日狩野さんと遊馬崎さんに捕まって延々熱く語られたんだけど。お前に代わってやりたかったよ、あの瞬殺マシンガントーク!」

結局カラオケに行くことなく、レンタルCDショップに来ていた帝人と幼馴染の正臣。
正臣は立ち並ぶCDを漁りながら話しをしていたため、『幻想的音楽』の単語が出た瞬間に、帝人の肩がふるりと一瞬ゆれたことには気づかなかった。

「何か某有名動画サイトで一気に爆発的人気が出てるのがあって、ソレがすごいんだって。あ、帝人のが俺より詳しいか?いい人たちなんだけど、しつこくてさー、軽く地獄を見たなーアレは」
「…へぇ。僕、チャットとか掲示板は見るけど、あんまり動画サイトって見なかったから…」
「今度、お前も狩野さんたちに捕まってみろ。頼むから」
「遠慮するよ」
「潔い!!」

特に何かを借りることもなく、2人はレンタルショップを出ると、そのまま別れた。
いつもなら夕方の賑わう池袋の街を何をするでもなく歩き回ったり、スーパーの安売り時間に合わせて買い物に向かう帝人だったが、その足は速いペースで自宅へと向かう。
徐々に早まっていく歩調は、しだいに走り始め、自宅のアパートに着く頃にはほとんど全力疾走になっていた。
苦しい息を落ち着ける間もなく慌てて鍵を開ければ、そのままPCの電源を点ける。
起動までの短時間に上着を脱ぎ、お茶を傍に置くと、彼はすぐに動画サイトのランキングページを開く。

そこには彼が思って、いや、恐れていた通り、ある曲が収録された動画が挙がっていた。
ヒクリと、喉が上がる。
震える指で再生ボタンをクリックすれば、PCの小さなスピーカーから音楽が漏れ始めた。

遠くで鳴っているようなハープの音色。
くぐもっていて抑えられたドラムのリズム。
キラキラとした金楽器の調べ。
そこに、”歌”が舞い降りる。
幽玄で神々しい、それはまるで。

「…っ!!」

ブツリと、帝人は先ほどよりも大きく震え手汗をかいた指で勢いよく停止ボタンを押した。
何で今更。
自分の頭皮からジワリとした油汗がにじみ出るのが分かる。
心臓がうるさい。息の仕方がわからなくなり、息苦しい。震えが、止まらない。

彼はそれから、まず運営側に動画を通報し、いくつも収録された曲のそれぞれの販売元である音楽会社に匿名で報告メールを送り、動画に幾つものIDで荒らしコメントを入れ、ありとあらゆる手を尽くした。
その結果、その動画とその派生動画はすべて翌日には消去されていた。

それでも、見た人の記憶や、違法にダウンロードされた情報を消すことは出来ない。
帝人は翌日、学校に向かう途中の道でそう思いながら鬱々と歩いていた。
頭の中に1枚のアルバムが思い出される。
12曲収録されたもので、そのアーティストから出た最初で最後のCD。
彼が小学生だった頃に一世を風靡したそのアーティストのアルバムは、日本全国どころか世界中で発売され爆発的な人気を博し、熱狂的なファンが数多く生まれ、一時社会現象にまでなった。
ただしそのアーティストが顔を出したことはなく、その年齢も性別も何もかもが秘密にされたまま、その歌手はそれきり一切、どこにも出現しなかった。
様々な憶測や、本人探しが行われ、そして厳重な個人情報保護の前に諦められ、そのまま流行は廃れていったのだ。
いまだに一部コアなファンの活動は行われていたが、それはごく小さいもので。
しかしそれが時に優れた方法でもって社会にそのアーティストの記憶を再び呼び起こした瞬間、社会は思い出してしまうのだ。

あの歌声を。

「―――っ!!」

嫌々と駄々をこねる子供のように帝人は頭を振る。
今更盛り上がったところで、何か変わるわけでもない。
すぐに熱し易く覚め易い情報社会に飲み込まれ、人の記憶の底へと流され忘れられていくのだ。