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忘れ去られた過去

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あの事故で記憶喪失なった佐藤くんは、本当に全くと言っていい程に俺の事は覚えてなかった。
俺は、佐藤くんとの関わりを無くす為に、わざわざ家から遠い高校を受験し、佐藤くんの家族に俺の話題を出さないようにっと口止めをした。
しかし、月日が経とうと佐藤を気にする気持ちが消えることはなくて、佐藤くんがバイトを始めたと知った時は、「長い時間も開いたことだし、少しくらいの接触なら…」という考えが巡って慎重な自分らしくもないと思いつつも面接を受けにいった。
面接は簡単に済み、バイト初日に佐藤くんに挨拶にいくと、当たり前だけど「ハジメマシテ」と言われた。
あぁ…やっぱり覚えていないか…。
あれから何年か立ってるけど、思い出してくれないよね。
そんな落胆する気持ちを隠して俺も「はじめまして」の言葉を口にした。
君は知らない。俺だけしか知らない思い出。






××××




「伊波ちゃんって、中学校も女子校だったの?」
「うん、男の人苦手だから……」
「そうかー、その頃から男性が怖かったんだね」

バイト終了後、女性陣が休憩室で雑談に花を咲かせていた。
そこにタイミング良く佐藤くんが通りかかると、予想通り捕まった。

「あ、佐藤さん。佐藤さんは中学時代どうだった?」
「普通だったが、それがどうかしたのか?」
「普通って、答えになってないよ。共学?それとも男子校だったの?」
「共学」

捕まった佐藤くんは種島さんから振られる質問に面倒くさそうに答えていた。

「そっかー。佐藤さんなら、男女両方共、友達は居たんだろうねー」
「いや、女友達は居なかった。男友達なら……」

佐藤くんは少し言葉を詰まらせたが、種島さんは気にぜず話を続けた。

「そっかー。中学校は男女は別れちゃうのかなー?」

とても何とも無い。他愛のない話をしていたはずなのに。
何か引っかかったのか、何か考える素振りを見せる佐藤くんにすかさず近づいた。

「佐藤くんは中学時代には好きになった人いないの?轟さんの前に好きだった人ー」
佐藤くんの背後に立って話しかけるとビックリした様に振り返って、反射的に殴られた。
「痛っ……!」
「お前が急に話しかけるからだろ。後、黙れ。それ以上言うな」

佐藤くんは俺の言葉と行動に驚いて、思考を掻き消さたのか考える事を放棄したようだった。
適当に種島さんたちとの会話を切り上げて、佐藤くんはに着替える為に足早に更衣室に向かった。
その後に続くように俺も更衣室に足を向けた。
更衣室の扉を開ける前、佐藤くんがあの時の事を思い出さない事に、ホッとする俺とガッカリする俺がいた。
深呼吸を一回して、気持ちを切り替えた俺は、いつもの笑顔で更衣室の扉を開けた。




×××




種島が話題を降ってきた中学時代の話に、頭の中で何かがチクッとした。
凄く小さい。けれど、とても大事なような何か。
ボーっと着替えながら考え事をしていると、相馬がいつもの笑顔で更衣室に入ってきた。

「本当に佐藤くんって乱暴だよねー。そんなんじゃ轟さんに嫌われるよー」

先程殴られたのにも懲りずに相馬は俺をからかう。

「(こいつは…無駄にいろいろと知ってるし…俺にばっか話しかけるし、何なんだ?)」

相馬の言葉を聞き流しながら、着替えると同じタイミングで相馬も着替え終わっていた。
別に興味もないのだが、この正体不明ともいえる男について考えていると、

「佐藤君、また考え事?あ、むっつりスケベな佐藤君は轟さんのイヤラシイ姿でも考えて」

相馬が言葉を言い切る前に俺は無言でこいつの頭を殴った。

「っ…。さとーくん、素手でも結構痛いんだよ……?」
「お前が俺を怒らせる事しか言わないからだろ?反省しろ」

涙目で殴られた箇所を抑える相馬に、そういうと反省したのかしてないのか分からないが頷いた。

相馬が頷いた後直ぐに更衣室を出て、車で家まで帰宅した。
疲れた身体に鞭打ち、適当にご飯を食べ、風呂に入った。
風呂上りに、冷蔵庫からビールを一本取り出して、喉を潤す為にグイッと飲む。

「ふぅー」

風呂上がりの酒は美味しく、ベッドまで行って、適当な肴と共に舌鼓を打つ。
ベッドに身を預けながら、バイト終わりにした種島との会話をふと思い出した。

「(あの時、何か思い出しそうだったんだよな…。中学時代、か…。男友達って誰かいったけ?)」

種島に話した、中学時代の男友達について思い出そうとしても、顔も思い出さなかった。

「(どんなやつだっけ?俺はそいつを…。あれ?何だ?分かんねぇー)」

部分的に記憶が無いような奇妙な感覚に、俺は妙な引っかかりを覚えた。





××××





種島さんと中学時代の話をした日から佐藤くんは、バイト中も何か考え事をすることが多くなった。
俺はそれが、何故だか分らないが不安でしかったなかった。
もし、あの事について佐藤くんが思い出そうとしてるでは、と心配したが杞憂だとその可能性は打ち消した。

「(どうせ、思い出すはずがない…。全部、全部佐藤くんは俺の事は忘れてしまったのだから。思い出すはずかないんだ」)」

俺は皺が出来るほど、服を握り目を閉じた。
佐藤君は一生俺のことは忘れたままでいい、轟さんと一緒になって、幸せになればいいんだ。
佐藤くんの幸せを願う自分の心に、微かにある気持ちは見ないフリをすることにした。





××××





種島と中学時代の話をしてから数日が経った頃。
バイト中にもたまに考えてしまうが、一向に思い出す気配がしなかった。
中学時代、俺は何してたんだ?誰といたんだ?何か大事なことを忘れている気がする。
休憩時間に考えていたら、山田が俺の髪を不躾に眺めながら、唐突にこんな質問してきた。

「佐藤さんは何故金髪にしたのですか?小さい頃の写真を見ましたが、黒髪でした」

それに、真っ当に取り合う気が無かったのだが、休憩中だけだと思いながら答えた。

「日本人なんだから、黒髪なのは当たり前だろ」
「なんで金髪にしたのですか?はっ…もしや、あまり愛情をかけてくれない親に対しての反抗心で…」
「そんな訳ないだろう。バカもん」

どういう思考をしているのか分からない山田の妄想話を一刀両断する。

「(そういえば、なんで金髪に染めたんだっけ?)」

山田の言葉に、金髪にした経緯を思い起こそうとしたが、ぼんやりとしか思い出しか思い出さなかった。
俺は山田が喋る声を全て聞き流して、金髪にした経緯について深く考え始めた。
何故かは分らないが、この事は思い出さないといけない気がして。


「(染めたのは高校時代…?いや、高校始まる頃には金髪にしていた。その前に何か……誰かに…誰か。誰だ?そうだ、そいつに言われたんだ。そいつとは仲が良くて。……男友達?そう男友達に…)」

ずっと引っかかっていた、男友達というフレーズに頭の奥で燻っていた言葉が思い浮かんだ。
誰かの声で「金髪とか似合いそう」と言われた気がした。

「誰だ……?」

頭の中でした声の主の声に、聞き覚えがあったが分からなかった。


作品名:忘れ去られた過去 作家名:蒼井