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折原さんちの帝人くん

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小学校高学年の頃、僕には同い年の幼馴染がいた。
勝気な女の子で、よく登校するとき一緒になった。
僕はそれをなんとも思わなかったのだが、
どうやら彼女のことを好いていた男子がいたらしい。
その子が友達を数人ひきつれて散々僕と彼女を囃し立ててきた。
行きではなくて、帰りの昇降口で。
彼女は顔を真っ赤にして何かもごもご言おうとしていたのだが、
結局それはからかってきた相手の名前を怒鳴って終わった。
そのまま相手を憤怒の形相で追いかけて行ってしまう。
それはまるで闘牛の突撃のようだった。

蜘蛛の子を散らすように相手の仲間もいなくなってしまい、
後にはぽつんと僕だけが取り残され…というわけにもいかなかった。
何故なら、囃し立てる声をきいていた別の男子が
引き継ぐように僕を質問攻めにしてきたからだ。
「へー、折原って全然目立たないのにあいつと付き合ってんのか!」
「あんな凶暴女のどこがいいんだって!」
「帝人くん進んでるなあ!」
ひゅーひゅー、と幼稚なからかいをどうして関係ない奴らから
受けないといけないのかわからない。
何か言い返さないといけないのに、僕はただ顔を真っ赤にして
俯いていることしかできなかった。
本当は足早に正門の外へ出て行きたかったのに、
そいつらが僕の下駄箱の前を塞いでしまっているからそれもできなかった。
恥ずかしい。
恥ずかしい。
何も言い返せない自分が酷く惨めで
恥ずかしい。

次々と下校する生徒の中に、同じクラスの男子がいた。
「おい、お前ら何やってんだよ俺の靴が取れねえ」
「あ?」
「ほら折原もそこに突っ立ってると邪魔だって。用もないならさっさと帰れよ」
乱暴な言葉だったが彼が自分を助けようとしてくれているのはわかった。
「う、うん…あ、ありが…」
「いいから早くしろよ」
助けてもらったお礼もまともに言えないまま彼らが去り、僕は1人で下校した。
一歩、また一歩とぼとぼと足を進めるたびに涙が溢れる。
「ひぐ、ふぇ、ひっく…」
声を押し殺して泣く僕を見とがめる人はいない。

当時通っていた通学路には小さな空き地があった。
おそらく一度更地にしたあと何か建てようとしたのだろう。
中途半端に建設材を運びこんであったものの、
このご時世だ、会社が立ち行かなくなったのか建設は進められずに
放置状態となっている。
子どもの格好の遊び場となりそうなその場所は
今日に限って誰もいなかった。



「ミカ兄?」
「……何…?(どうしたの)」

「…舞流ちゃん…九瑠璃ちゃん…」
土と埃臭い土管の中で独りで泣いていた僕は突如としてきき覚えがある声がかけられたことに酷くうろたえていた。
「どうしたの?誰かにいじめられた?」
「……涙…(なかないで)」
口々に同じ顔の少女が僕の涙を指で、ハンカチで拭ってくれる。
妹に情けない姿を見られたことが何より恥ずかしくて、
僕は身をよじってそれから逃げた。
「も、もうすこししたらちゃんと家に帰るから…先帰ってて?」
涙でぐしゃぐしゃの顔を見られたくなくて、
両手で隠しながら言った。裏返った声がみっともない。
それを聞いた二人は一瞬きょとんとした顔をして
「「イヤ」」
と即座に突っぱねた。
いつもなら僕の言うことは大抵聞いてくれるのに。
「ど、どぉして…」
「だってミカ兄が泣いてるんだもん。
しかも一人ぼっちで。ほっとけないよ!」
「…哀…与…(泣くなら私の膝を貸してあげる)」

二人は本当に純粋に僕を気遣ってくれている。
妹たちはとても素直で可愛いのだ。
でも、今はだれにも傍にいてほしくない。
「い、今…僕…独りでいたいんだ…
ここで、ちょっとだけ独りでいたら、また元通りに、なるから…
そしたらまたいつもの僕になるから…
父さんにも、母さんにも、兄さんにもこのこと言わないで。
今だけ、そっとしておいて…おねがい…」
切れ切れに伝えた言葉を妹たちはじっと聞いていた。
そして「わかったよ」という言葉の後に、
「誰にも言わないでいてあげる、だから私たちにだけは理由を教えて?」
猫のように目をきらめかせて舞流が言う。
「…ほんと…?」
「もちろんだよ!ミカ兄の頼みだもん!」
「……撫(だいじょうぶ)」
なでなでと九瑠璃が優しく頭を撫でてくれる。
それが臨也さんの手つきに似ていて、思わずその手に頭を擦りよせた。

「あのね…」
そして僕は今日起こった出来事をぽつぽつと語り始めた。





日が沈みかけたころ、僕はこっそりと家に帰った。
「あれ、帝人くん遅かったね!おかえりー」
出迎えたのは珍しく兄だった。
「ん?母さんたちは今日から海外出張だって。だから今日の夕飯は俺が作ります。
何がいい?」
いつも通りの明るい兄に酷く安心する。
続いてリビングから双子が顔をのぞかせた。
「あっミカ兄おかえり!遅かったね!」
「…帰…」
「あのね聞いてよ!クル姉はハンバーグがいいっていうんだけど
私はオムライスが食べたいの!それでミカ兄にどっちかに決めてほしいんだけど」
「…私…良(ハンバーグがいいよね)」
「えーオムライスだもん」


作品名:折原さんちの帝人くん 作家名:おりすけ