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まるてぃん
まるてぃん
novelistID. 16324
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連綿たる始まり ~13 years ago~

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「よいのですよ。あれはいくら言ったところで、結局は決して己の意志を曲げようとはしません。軍に入ると言い出した時もそうでした。私がいくら説得しても、まるで耳を貸さずに―――何をわざわざ好き好んで自分から血生臭い世界に入りたがるのか……失礼。これは失言でしたな」

その「血生臭い世界」の住人が目の前にいることを思い出したように、パリスが言葉をにごらせる。それにコルトンは軽く笑って見せた。

「気をつかわずとも結構ですぞ。確かに軍とは殺し合いの世界ですからな。ならずに済ませられるものならば、軍人になどなるものではない」
「…申し訳ない。あなたのことを申した訳ではないのです。確かに軍という機構は、国家の存続には欠かせないものでしょう。その重要性もわかっています。ただ、あなた方のように軍人の家系として生まれ、武力でもってこの国を守る責務を生まれた時から課されているのならともかく、あれは政治面からこの国を支えるべきランバード家に生まれた。その責務も忘れて自ら軍に入ったことが、私には許せぬのですよ」

その生真面目な答えに、コルトンは相手に気づかれぬように口の端に苦笑をのぼらせる。
要するに彼も人の親だということだ。もったいつけた言い方をしているが、その言葉が意味するところは、「危険な場所に息子をやりたくない」という一言に限られる。
どうせトロイが軍に志願した時も、先ほどのように冷たい言葉で一蹴したのだろう。
素直に心配していることを告げれば、あの少年とて軍隊入りを考え直したかもしれないだろうに。

「ご子息はまだお若い。軍に志願されたのも、この国を守りたいという情熱がゆえでしょう。そのうち軍にいることばかりが、この国を守る方法ではないと気づかれるはずです」

コルトンは半ば労わりの気持ちも込めて、友にそう告げた。
だが、パリスはにこりともせずに、それどころか神妙な面持ちでつぶやいた。

「あれは、私に似ています」

コルトンはパリスが何を言い出したのかわからず、目をしばたたかせる。
パリスはまっすぐに前を向いたまま、さらに言葉をつないだ。

「決して己の意を曲げぬ。愚かしいほどに自分の信じた道を、真っ直ぐに貫き通すような子です……だから、コルトン殿。あなたにお願いしたいのです」

パリスが立ち上がり、隣に並ぶコルトンに向き直る。
その瞳は怖いほどに真剣で、コルトンは何も言えずにただその目を見つめ返した。

「もう説明する必要はないかと思いますが、先ほどの話をお聞きになった通り、私は近日中に例の事件の協議のために赤月帝国へと向かうことになります。…今回の事件は、あの子が言ったように異様です。誰がなんの目的で行っているのかまったくわからない―――それこそ、虐殺を楽しんでいるかのような…そんな地へと赴くのですから、私の身に万が一のことがあるかもしれない」
「! そのようなことは―――」
「ありえなくはありません」

コルトンの言葉を遮るように、パリスは静かに首を振った。
どこか覚悟を決めたような彼の面差しに、コルトンは言葉をなくす。
まるで遺言を託すように、パリスはコルトンの手をとった。

「息子のヘクトルは、私が亡くなったあとも、ランバード家の跡目として親族の者達が支えてくれるでしょう。無論この機を逃さずに我が家を潰しにかかる輩もいるでしょうが、親族の中には信頼できる者達も多くおります。ヘクトルのことは、彼らに任せておけば安心です。…ですが、トロイは軍にいる限り、ランバード家の力では守ることができません。私達一族は政府内には力が及びますが、軍隊自体への影響力はそれほど強くはないのですよ。今はまだ私の存在が、あの子を守ってやれる。けれど私がいなくなれば、軍の中であの子は孤立してしまうでしょう。…ですから、はなはだ勝手なこととは承知しておりますが、どうか私が亡きあとは、コルトン殿にあの子の後見役になっていただきたいのです。多くは望みません。ただ、あの子を影ながらに支えてやってくだされば、それで―――」

重ねた手に力を込めて語りかけてくるパリスに、コルトンは己のもう片方の手のひらを乗せて力強くうなずき返した。

「パリス殿。ご子息のことはお任せください。たいしたことはできませんが、私の力が及ぶ限りお守りすることを誓いましょう」

コルトンは初めて友をその名で呼んだ。
これまでは、己より遥かに身分の高い相手に対して、敬意を込めて家名でしか呼んだことがなかった。だが、この時確かにふたりの間には身分も何もなく、ただ同じ子を持つ親の立場として盟約を交わし合った。

「ですがまあ、あなたが無事に帰ってくれば、なんの問題もない話ですがな。私もご子息のことで気苦労させられずに済むというものです」

コルトンが茶目っ気を含んだ声音で言うと、パリスの口元にもようやく笑みが戻る。

「そうですな。私もあなたに愛しの息子を取られずに済むというものです」

言外に自分が溺愛している一人息子のことを揶揄されて、コルトンは声をあげて笑った。
パリスもつられたように声をあげる。
窓からは、ようやく夜明けを迎えた朝陽が差し込んできていた。