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まるてぃん
まるてぃん
novelistID. 16324
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連綿たる始まり ~13 years ago~

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コルトンとトロイが握手を交わし合ったのを見届けてから、パリスがちらりとコルトンに視線をやり、次にトロイへと向き直る。
コルトンは彼の視線の意図を正しく汲み取り、先ほどまでトロイがその場に腰を落として待ち続けていたはずの接客用のソファへと、自らの身を預けた。
パリスは備え付けの執務机のイスへと腰をおろす。几帳面なまでに整理の行き届いた机の上に両ひじを乗せ、神経質そうに指を組んだパリスの前で、トロイはピンと背筋を伸ばして父親と向き合っていた。
コルトンはその背中を見ながら、奇妙な親子だと思う。
先ほどの会話のやり取りといい、トロイの態度は実の父親に対するものとしてはあまりにも堅すぎる。コルトンという部外者がいる前だからかもしれないが、それにしても視線の先の背中はどこか緊張して強張っているようにも見えた。
どちらにせよ、この場ではコルトンはまったくの第三者でしかない。親子の会話に口を挟むほど無粋でもなければ、分別のつかない歳というわけでもなかった。
ゆったりとソファに背を預け、見るともなしに見た目のよく似た親子を眺める。
わずかばかりの沈黙のあと、苦いものを含んだようなパリスの低い声が聞こえた。

「…それで、わざわざこのような夜も明けきらぬ時刻から、何をしに参ったのだ? 公務に関わりのないことは、屋敷で聞くと言っておいたはずだが?」

こちらも息子に対するものとしては、どことなく口調がぎこちない。
それにやや反抗するような少年の声が重なった。

「父上はこの数週間、ほとんど屋敷には戻らずに官邸に詰めておいでではありませんか。それに私もそうそう軍の官舎を抜けて、屋敷に戻るわけにはまいりません。本日こそは父上の口から事の真偽を確かめたく、こうして任務が始まる前にこの場へとやって来た次第です」

息つぐ間もなく言葉を紡いだトロイに対して、パリスが片手をあげて止める。

「ちょっと待て。そう急き込んで話すな。だいたい事の真偽とは、いったい何のことだ」
「それは―――」

トロイは言葉をつなごうとして、背後にいるコルトンの存在を思い出したように振り返る。
彼は一瞬だけ考え込むように瞳を伏せたが、すぐにパリスに向き直り、続く言葉を口に乗せた。

「ヘクトルから聞きました。父上が今回の事件に関して赤月帝国と協議するため、かの国へと赴くと―――それは本当なのですか?」

聞いていたコルトンも、驚いて思わずソファから身を浮かしかけた。
トロイが口にしたことは、まだ公には発表されていない事実だった。
赤月帝国の国境付近の村で起きた事件は、確かにクールーク皇国との休戦協定を揺るがす大問題である。だが、その調停を図るためにパリスほどの人物が出向くことになるとは―――それほど事態は深刻であったのかと、コルトンは今さらながらに思った。

「ヘクトルか…あれも少々口が軽いな。それで、おまえはわざわざそのようなことを確かめに参ったのか」
「そのようなことではありません! 今、あの国で起こっている事件は異様です。いったい誰がなんの目的で村を襲っているのか・・・・・・あれではまるで単に虐殺をおもしろがっているだけのようではありませんか。そのような危険な土地へと赴かれるというのに、なぜ私には話してくださらなかったのですか!」

父親に食ってかかるトロイに、パリスはどこか辟易したような声を投げる。

「何かと思えば、要するにおまえは自分が除け者扱いされたことに拗ねたわけだな」
「!! 私はそのようなことを言っているのでは―――!!」
「私の言葉も聞かずに、勝手に軍に志願したのはおまえだぞ。ランバード家は、代々クールーク皇国を政治面から支えてきた。その誉れ高き役割も忘れて軍人となった時点で、おまえには我が家を継ぐ資格はない。次の家督を弟に譲り渡しておきながら、私が後嗣のヘクトルに事情を説明し、おまえには何も話さなかったからといって、そのことでどうこう言うのはお門違いと言うものではないか?」

冷たく突き放すように言い切ったパリスに、トロイはぐっと言葉を詰まらせた。
背後でふたりのやり取りを見守っていたコルトンの目にも、少年の肩が小刻みに震えているのがわかる。
やがてトロイはのどの奥で押し殺したような声音で一言「失礼します」と言い置くと、足早に出て行った。
パリスとともに部屋に残されたコルトンは、友のもとへと近づきながら、溜息を吐き肩を落とす。

「やれやれ。あれでは少々ご子息がお気の毒ではありませんかな?」

パリスの言い分がわからぬわけではないが、父親に冷たくあしらわれたトロイがさすがに少しばかり憐れに思えた。