月夜にコンビニ、悪い虫
ぼんやりと呟く世良は、後ろから見ると意外なくらいに顎のところが柔らかく丸い。髭で隠しているから、正面から見るとわからないのだ。そこを堺が指でそっと撫でれば、気持ち良さそうに自分から擦り付けてくる。猫みたいだ。
「……あのジャンプ、捨てないと」
「そうだな」
2人は、ちらりと虫をサンドイッチしたジャンプを横目で見た。今は、コンビニの袋で2重に包まれている。
「お前、何読んでなかったの」
「銀魂と、ワンピースと、ブリーチと、ナルトと、ハンターハンター……」
「後ろから読む派か」
「へへ、そうッス」
くすぐったそうに笑う世良がなんだかもどかしいような気持ちがして、堺は整えた世良の髪をまたグシャグシャとかき混ぜた。「うわあ」と声は上がるが、世良は怒らない。むしろケタケタ笑っている。
堺の中にしぶとく残っていた“ざあざあ虫”が、とうとう、消えていく。
「ジャンプ、買ってやるよ」
「え? ……そんなの、もう、いいんス。ほんと」
「うるせえな。コンビニ、行くぞ」
世良がきっと何か言おうとするに違いないと思って、堺は先手を取ってやる、と唇をギュッと摘んだ。案の定、ムー! と世良が暴れて、ハハハ、と堺は笑う。
「水曜だもん、もう、置いてないかも」
「見つかるまで付き合ってやるよ」
ちょうど月も、明るいことだし。
作品名:月夜にコンビニ、悪い虫 作家名:ちよ子