天国の塔
「私のガラガラが騒ぐので、メールを書きました。もう随分顔を見ていない気がします。近いうちに、帰ってきてくれませんか。カラカラは、先に来ているようです」
ああ、なんだ。
心配するまでもなく、先に帰っていたんだ。
受話器を取る。錆び付いた電話番号を押すと、程なくして聞き覚えのある声が応対した。
生があれば死がある。生きものには限りがある。だから、生きものは尊いんだ。
「お母さん……」
失ってから気づくのは、愚かだ。けれども気づかないよりずっと良い。
カラカラは最後の最後まで、私のパートナーだった。
ふと、足下に気配を感じた。下を見ると、誰もいない。
けれども私には、こちらを見上げる、あの骨の下の小さな目が見えた気がした。
冒険には出ない。夢を見るような年齢でもない。けれど、私にはまだ生がある。私の生もあれば、私の周囲の生もある。
死を悲しむのは悪いことではない。別れは寂しいものなのだから。でも、死を恐れてはいけないよ。それは生を恐れることになる。
亡くなった祖母の言葉だ。母のガラガラは、祖母のガラガラの娘だった。そうして連綿と生は続いていく。
血の連鎖は私が断ち切ってしまった。けれど、生の連鎖は血だけではない。あの少年と私も今日、繋がった。世界は広いが、バラバラではない。
私はインターネットを立ち上げて、飛行機のチケットを探した。
季節は秋だった。