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サイケデリック

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綺麗な声が響く。
静かに、そっと、心に寄り添うような歌声。
サイケはその声を辿りながら、心を弾ませた。
こんな声聞いたことがない。
一体誰が奏でているんだろう。
ぴょこっと壁を覗いてみると、そこには見知った姿があった。
木々が揺れる花壇に腰掛けながら、小鳥たちの囀りとハーモニーを奏でているボーカロイド。

「・・・がっくん」

サイケは瞠目した。
初めて聞く。
学人は人前で歌わなかったから、歌えないボーカロイドだと思っていた。
歌えないなんて、ポンコツかな?と思っていたから(実際目の前で言った)、
こんな素敵な声を出せるのかと本当に驚く。
サイケは一生懸命息を潜めて、学人の声を聞いた。
もしここにいることが気が付かれたら絶対に学人は歌うのを止めてしまうだろう。

「すごい・・・」

高揚する。
今まで聞いたどの曲よりも、心に響く。
ずっと聞いていたい。
ずっとずっとずっと。

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「がっくん、すごかったなぁ~ねぇねぇ臨也!がっくんすっごい歌うまいねぇ!」

「ん?あぁ、当たり前でしょ。だってあれそういう風に作ってあるんだもん」

臨也はこともなげに言う。
サイケは瞳を見開いて、臨也の横をぴょこぴょこ飛び跳ねた。

「ねぇねぇねぇ!何で臨也が知ってるの!」

「なんでって・・・」

臨也はディスプレイから視線を外し、身体ごとサイケに向き直った。

「だって学人を開発したのは俺と帝人君だから」

サイケは声を出すことが出来なかった。
あまりの衝撃に瞬きすることも忘れる。

「何その顔・・・。はぁ。まぁ、学人は普通のボーカロイドと違うって事」

そう言って臨也はまたPCのディスプレイに向き直る。
サイケは俯き、学人のことを考えた。
あの学人が。自分たちとは全く別物のボーカロイド。

(だからあんな歌が歌えるんだ・・・・)

心を鷲づかみにされた感覚。
聞きたい。ずっと。傍で。
サイケは顔を上げ、臨也の部屋を出て行った。

「ちょっとがっくんに会いに行ってくるね!」

「って、え!?ちょっ、サイケ!」

臨也が立ち上がり、止めようとしたが時すでに遅し。
サイケの姿はどこにも見えなかった。

「・・・帝人君に連絡しておこう」

臨也はため息をつくと、携帯に手を伸ばした。

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「それでわざわざ折原さんの所を抜けてきたの?」

学人は扉を開けて驚いた。

「うん!がっくん歌って!俺のために歌って!」

満面の笑みで見上げてくるサイケを見て学人は肩を落した。
サイケは笑いながら学人の服の裾を引っ張る。

「ねぇがっくん。俺ねがっくんの歌好きだよ!だーいすき!」

「・・・ありがとうサイケ。でも僕は人前で歌は歌いたくないんだよ」

「・・・どうして?どうして歌いたくないの?」

「サイケは純粋だね。きっと君の質問は表裏なんて無いんだろうなぁ」

「何を言いたいのがっくん?」

学人は悲しく笑い、サイケの頭を撫でた。
サイケは小首を傾げて学人を見上げる。

「確かに僕の歌は他のボーカロイドと違う。その為に色々な目に遭ってきたんだ。
攫われたり、壊されかけたりね・・・」

「ぇ・・・」

「マスターと折原さんのおかげで今の僕がいる。・・・心配をかけたくない。
これが僕が歌わない理由だよ」

分かってくれた?と学人は泣かしく笑う。
サイケは俯いて服を握りしめていた指に力を込めた。

「サイケ・・・。僕の歌を好きだと言ってくれてありがとう。だけどごめんね・・・」

学人はサイケの頭をもう一撫ですると、家へと招き入れた。

「今から津軽が来るらしいから、送っていってもらいな」

「・・・うん」

「サイケがそんな顔することはないんだよ」

「・・・うん」

学人は苦笑すると、サイケを抱き上げた。
必然的に二人の視線が同じになる。

「がっがっくんっ」

「ねぇサイケ。僕はサイケの歌が好きだよ。サイケが笑って歌っている姿が好きなんだ」

「がっくん・・・」

「だから笑って?そんな悲しそうな顔をしないで」

「がっくんっ」

「ふふ、どうして泣くのかな?」

「し、知らないっ」

「ほら、涙止めて。津軽が心配しちゃうよ」

「うぅ、ちょっと待って・・・!」

「はいはい」

そんな二人の遣り取りを、電話を片手に眺めていた人物が1人。

「はい、あぁサイケは大丈夫ですよ・・・え?学人?学人も問題ありません。
サイケは泣きながら笑ってますよ。器用ですね~。えぇちゃんと送り届けますから」

帝人は苦笑しながら、携帯の電源を切った。

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「お帰り」

飛び出した家に帰ってくるほど、居心地の悪い物はないとサイケは痛感した。
臨也が頬を引きつらせながら、仁王立ちしてサイケを待ちかまえていたのだ。

「ただいま・・・」

「帝人君と学人に迷惑かけて・・・!しかも津軽に送ってもらってるしっ」

「ごめんなさい・・・」

サイケは正直に頭を下げる。
自分が悪いことをしたと言うことは自覚がある。

「はぁ、いいよもう。二人は怒ってなかったし。俺が怒るのも性に合わないし」

臨也はため息をついて部屋の奥に戻ろうとした。

「ごめんなさい・・・ねぇ臨也」

「何?」

臨也が肩越しにサイケを見た。
サイケは頭を上げ、臨也を見上げる。

「俺をアップデートしてっ」

「・・・は?」

「お願いっ」

臨也は頭を掻いて、深いため息をつく。

「・・・・別に良いけど当分の間再起不能になるよ?」

「いい。お願い」

サイケの瞳に迷いは見られなかった。

「ふーん。分かった」

臨也はそう言うと、サイケに手招きをする。
サイケは瞳を輝かせて、テクテクと臨也の後を付いていった。

「後悔しない?っていうか俺は今のままが良かったんだけど」

「いいの!俺は変わりたいの!」

「学人のため?」

「うん!」

「はぁ、純粋だなぁサイケは」

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「えっと・・・・」

学人は目の前でニコニコ笑う臨也と、臨也に似たボーカロイドを交代交代で見つめた。

「あぁ、サイケアップデートしちゃったんですね」

「うん。サイケがどうしてもっていうからさ」

「小さい方が可愛かったのに」

「俺もそう思ってたんだけどね~」

帝人と臨也はサイケがどうしてこんなに大きくなったのを知っているようだ。
学人だけが混乱してアワアワと慌てている。
学人は帝人の服の裾を掴んで、サイケを指さした。

「マ、マスター・・・あ、あれサイケ?」

「そうだよ?・・・あぁ、サイケはアップデートしてもらって新しい情報をインストールしたんだ」

「そ。身体が大きくなるソフトをね」

「・・・僕より背が高い」
作品名:サイケデリック 作家名:霜月(しー)